プロレスラーの内藤哲也選手がインタビューやマイクパフォーマンスで多用する「トランキーロ」などのスペイン語。その独特なリズムと響きは多くのファンを魅了していますが、実際のスペイン語としてどのような意味やニュアンスが含まれているのでしょうか。
内藤選手はメキシコのプロレス「Lucha Libre(ルチャ・リブレ)」への遠征を通じて現地の言葉を習得しました。本記事では、彼が使用する代表的な単語の意味だけでなく、学習者が知っておくべき正しい文法や、メキシコ特有の表現背景について詳しく解説します。
内藤哲也選手のユニット「Los ingobernables de Japón(ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン)」の意味
ユニット名の核となる ingobernable は、「統治され得ない、手に負えない」という意味を持つ形容詞です。
スペイン語では、単語の頭に in- または im- が付くことで、否定の意味を持つことがあります。この単語も gobernable(統治・支配され得る)に否定の in が付いた構造です。
Ingobernable
直訳:統治できない
意訳:制御不能な、手に負えない
形容詞に定冠詞(los)を付けることで「〜な人たち」という名詞化が起こり、Los ingobernables で「手に負えない者たち」となります。新日本プロレスではこれを「制御不能な奴ら」と訳しています。
元々メキシコのプロレス団体「CMLL」に Los ingobernables というユニットが存在し、そこに内藤選手が加入しました。その後、日本へ持ち帰る形で「de Japón(日本の)」を付け加え、現在のユニットが結成されました。
加入時のエピソード
2015年、本家メキシコのメンバーであったラ・ソンブラ選手から内藤選手が紹介された際の動画があります。
この時、内藤選手は以下のように述べています。
Naito está de regreso en México.
直訳:内藤はメキシコに戻っている状態です。
意訳:内藤はメキシコに戻ってきました。Y ahora soy un japonés ingobernable.
直訳:そして今、私は制御不能な日本人です。
意訳:そして今、俺はロス・インゴベルナブレスの一員である日本人だ。
内藤哲也選手がよく使うスペイン語単語一覧
内藤選手のマイクパフォーマンスでおなじみの単語について、言語学的な観点から解説します。
Tranquilo(トランキーロ)
Tranquilo
直訳:穏やかな、静かな
意訳:焦るなよ、落ち着け
内藤選手は「トランキーロ!あっせんなよ!」という決め台詞で有名ですが、本来の意味は「穏やかな」「落ち着いた」という形容詞です。
また、「落ち着く」という動詞 tranquilizarse を命令形で使い、¡Tranquilízate!(トランキリサテ!) と言うのが文法的には正式な「落ち着け!」の表現です。
Cabrón(カブロン)
Cabrón
直訳:雄ヤギ(原義)、寝取られ男
意訳:クソ野郎、すげぇ奴(メキシコ俗語)
非常に強い言葉であり、使用には細心の注意が必要です。本来は「妻を寝取られた男」という侮辱的な意味を持ちますが、メキシコでは文脈によって意味が大きく異なります。
内藤選手は対戦相手を罵倒する際に使用するため、「このクソ野郎が」というニュアンスで間違いありません。
一方で、親しい友人同士や、素晴らしいパフォーマンスをした相手に対して「お前は最高だ(すげぇ奴だ)」という意味で肯定的に使われることもあります。
注意点:
メキシコ以外のスペイン語圏では、単なる激しい侮辱(喧嘩の火種)となる場合が多いため、安易な使用は避けるべき言葉です。
Pareja(パレハ)
Pareja
直訳:一対のもの、ペア
意訳:パートナー、相棒、恋人
内藤選手は「仲間」という意味で使用していますが、日常会話で「Mi pareja(私のパレハ)」と言うと、通常は「私の恋人(配偶者)」を指します。
プロレス(ルチャ・リブレ)の文脈ではタッグマッチが多いため、「タッグパートナー」の意味で使われます。単なる仕事仲間(Compañero)や友人(Amigo)よりも、運命を共にする「相棒」という強い結びつきを感じさせる表現です。
En serio(エンセリオ)
En serio
直訳:真剣に
意訳:マジで、本当に
ユニットメンバーのBUSHI選手が多用するフレーズです。「これ、マジだからな!」と強調する際に使われます。
疑問形にして ¿En serio?(エン・セリオ?) と言えば、「本当ですか?」「マジで?」という相槌としても非常に便利です。
日常会話でも使える形容詞・挨拶
内藤選手は単語のみを発することが多いですが、日常会話で使うには動詞と組み合わせる必要があります。
Ocupado(オクパード)/ Cansado(カンサード)
それぞれ「忙しい」「疲れた」という意味の形容詞です。正しく文を作るには、状態を表す動詞 estar を伴います。
Estoy ocupado.
直訳:私は忙しい状態にある。
意訳:私は忙しいです。
Estoy cansado.
直訳:私は疲れた状態にある。
意訳:私は疲れました。
ここでも性数一致のルールが適用されるため、主語が女性の場合は、Ocupada(オクパーダ)、Cansada(カンサーダ)と語尾が変化します。
また、Ocupado はトイレなどの個室に対して使われると「使用中(入ってます)」という意味になります。
挨拶表現:ブエナス・ノーチェス等
- Buenas tardes(ブエナス・タルデス):こんにちは(午後)
- Buenas noches(ブエナス・ノーチェス):こんばんは、おやすみなさい
tardes は午後、noches は夜を意味します。朝の挨拶は Buenos días(ブエノス・ディアス) です。días は男性名詞であるため、Buenas ではなく Buenos となる点に注意が必要です。
必殺技・技名のスペイン語訳
内藤選手の技名は、響きが美しいだけでなく、その意味を知るとプロレスのストーリー性がより深く理解できます。
Destino(デスティーノ)
意味:運命、目的地
自身のキャリアそのものを「運命」と捉える内藤選手を象徴する技名です。
Gloria(グロリア)
意味:栄光
Pluma Blanca(プルマ・ブランカ)
意味:白い羽根
Pluma は「羽根」や「ペン(万年筆)」、Blanca は「白い」を意味します。「翼」と訳されることもありますが、翼は一般的に Ala(アラ)と言います。
Polvo de Estrella(ポルボ・デ・エストレージャ)
意味:星屑(スターダスト)
Polvo は「粉、塵」、Estrella は「星」です。
【学習者必見】内藤選手のスペイン語インタビューを解説
内藤選手のスペイン語は、文法的に完璧ではないものの、単語を並べて意志を伝える「サバイバル・スパニッシュ」として非常に実践的です。ここでは、彼の発言を分析し、学習者が真似すべき点と、正しく補正すべき点を解説します。
以下の動画は、2018年8月31日にメキシコで行われた試合後のインタビューです。
インタビューの添削と解説
内藤選手の発言(0:15付近〜)と、それを正しい文法に直した例を比較します。
発言1:現状と帰国について
内藤選手:
Todo bien, todo bien. Tranquilo. Aquí mí casa. Tal vez regreso México.文法的な補正案:
Todo está bien, estoy tranquilo. Aquí es mi casa. Tal vez regrese a México.
解説:
「Aquí mi casa(ここ、俺の家)」でも通じますが、動詞 ser を用いて Aquí es mi casa とするのが正式です。「Regreso」は現在形ですが、「多分(Tal vez)」という不確定な未来の話をする場合、接続法を用いた regrese が適切となるケースが多いですが、日常会話では現在形で代用されることも多々あります。
発言2:髪切りマッチ(カベジェラ戦)について
内藤選手:
Cabellera no problema.文法的な補正案:
No hay problema en apostar la cabellera.
解説:
内藤選手は「髪の毛、問題ない」と単語を並べています。スペイン語で「問題ない」は No hay problema(ノ・アイ・プロブレマ) が定型表現です。Cabellera は「頭髪」を意味します。
2019年3月29日 CMLL参戦時の様子
その後、2019年にもメキシコシティのアレーナ・メヒコで行われたCMLLの興行に参戦しています。本家メンバーとの連携も見られました。
まとめ
内藤哲也選手のスペイン語は、文法の正確さよりも「伝える意志」と「キャラクターの表現」に特化しています。しかし、その中にはメキシコの文化やスラングのエッセンスが凝縮されており、スペイン語に興味を持つ入り口として最適です。
プロレスを通じて覚えた単語(Tranquilo や Cansado など)をきっかけに、ぜひ動詞の活用や正しい文法構造にも触れてみてください。ラテンアメリカの言葉は、その文化と同じく非常に情熱的で奥深いものです。

