スペイン語圏、特にラテンアメリカで生活していると、誰かがお皿を割ったり、物をなくしたりした時に、まるで「自分は悪くない、物が勝手にそうなったんだ」というような言い方を耳にすることがあります。
これは彼らが無責任だからではありません。「自分の意志で行ったわけではない(アクシデントである)」ということを強調するための、スペイン語特有の文法表現が存在するからです。
本記事では、この便利な「無意志のSe(Se accidental)」と呼ばれる構文について解説します。「うっかり~しちゃった」と言いたい時に必須の表現です。
「私がやったんじゃない!」スペイン語の責任回避の考え方
この表現を使いこなすには、まず日本語とは異なる「主語の考え方」を理解する必要があります。
日本語とスペイン語の主語の違い
例えば「私はカメラを落としてしまった」と言う場合、日本語では主語は「私」です。
- 日本語の発想:(私が)カメラを落とした。
しかし、スペイン語の「無意志のSe」の構文では、主語は「カメラ」になります。「カメラが、私に対して、落ちてしまった」という論理構造をとります。
- スペイン語の発想:(カメラが)私に対して落ちた。
「私が落とした」と言ってしまうと、「(故意に/不注意で)落とす行為をした」というニュアンスが含まれてしまいます。それを避けるために、「カメラが勝手に落ちるという現象が、私の身に降りかかった」という言い方をして、責任の所在をあいまいにします。
「Se me 構文」の作り方と文法ルール
この表現は、以下の要素を組み合わせて作ります。
基本公式
Se + 間接目的語(me, te, le…) + 動詞 + 主語(モノ・事柄)
この語順が基本です。各要素の役割は以下の通りです。
- Se:再帰代名詞(受動や自発を表す機能)
- 間接目的語:誰の身に起きたことか(被害者・行為者)を表します。
私なら me、君なら te、彼・彼女・あなたなら le を使います。 - 動詞:後ろに来る「モノ」に合わせて活用します。
- 主語:落ちたり、壊れたりした「モノ」が主語です。
動詞の活用は「モノ」に合わせる
最も重要なポイントは、動詞の活用(単数・複数)は、後ろに来る「モノ」の数で決まるということです。
「私(me)」はあくまで「~してしまった人」を表す添え物であり、文法上の主語ではありません。
モノが単数の場合(動詞は3人称単数形)
Se me cayó el celular.
直訳:携帯電話が、私に対して落ちた
意訳:携帯電話を落としてしまった
モノが複数の場合(動詞は3人称複数形)
Se me cayeron las monedas.
直訳:コイン(複数)が、私に対して落ちた
意訳:小銭を落としてしまった
場面別!よく使われる5つの「うっかり」パターン
日常会話で頻出する、5つの動詞パターンを紹介します。これらを覚えておくと、トラブルが起きた際に角を立てずに状況を説明できます。
1. 忘れる:Olvidársele
「宿題を忘れた」「財布を忘れた」など、うっかり忘れてしまった場合に使います。
Se me olvidó la tarea.
直訳:宿題が、私に対して忘れられた
意訳:宿題を忘れちゃった
Se me olvidaron las llaves.
直訳:鍵(複数)が、私に対して忘れられた
意訳:鍵を忘れちゃった
※単に Olvidé las llaves.(私が鍵を忘れた)と言うよりも、「忘れるつもりはなかったのに」というニュアンスが強くなります。
2. 落ちる:Caérsele
手から滑り落ちた場合や、ポケットから落ちた場合に使います。
Se me cayó el helado.
直訳:アイスクリームが、私に対して落ちた
意訳:アイスを落としてしまった
3. 壊れる:Rompérsele
意図せず壊れてしまった場合です。これを普通の過去形(Rompí…)で言うと、「私が(壁に投げつけるなどして)破壊した」ように聞こえかねません。
Se me rompió la pantalla.
直訳:画面が、私に対して壊れた
意訳:画面が割れてしまった
Se me rompieron los lentes.
直訳:眼鏡が、私に対して壊れた
意訳:眼鏡が壊れてしまった
4. なくなる・尽きる:Acabársele
ラテンアメリカで非常に頻繁に使われる表現です。電池切れや、お金を使い果たした時などに便利です。
Se me acabó la batería.
直訳:バッテリーが、私に対して尽きた
意訳:充電が切れちゃった
Se nos acabó el dinero.
直訳:お金が、私たちに対して尽きた
意訳:お金を使い果たしてしまった(お金がなくなっちゃった)
5. 紛失する:Perdérsele
どこかで落としたり、置き忘れて見つからない場合に使います。
Se me perdió el pasaporte.
直訳:パスポートが、私から失われた
意訳:パスポートをなくしてしまった
他の人(君・彼)が「~してしまった」と言う場合
自分(me)だけでなく、相手や第三者の失敗を指摘する場合にも使えます。特に「何か落ちましたよ」と声をかける場面では、この構文を使うのが最も自然です。
相手(tú / vos)の場合:
Se te cayó el pañuelo.
直訳:ハンカチが、君に対して落ちた
意訳:ハンカチ落としたよ(落ちたよ)
敬語の相手(usted)の場合:
Disculpe, se le cayó algo.
直訳:すみません、何かが、あなたに対して落ちました
意訳:すみません、何か落としましたよ
まとめ
スペイン語の「Seを使った無意志の構文」は、文法的に面白いだけでなく、ラテンアメリカの人々の「メンタリティ」を理解する上でも重要です。
何か失敗をした時、Lo rompí(私が壊した!)と自分の過失を認めるのも誠実ですが、日常のちょっとしたアクシデントなら Se me rompió(壊れちゃった)と言うほうが、ネイティブの感覚に近く、会話もスムーズに進みます。
ぜひ、日常の「うっかり」をこの構文で表現してみてください。

