スペイン語学習において、最初の大きな壁となるのが「再帰動詞」です。「meとかseとか、どこに付ければいいの?」「普通の動詞と何が違うの?」と混乱してしまう方は少なくありません。
しかし、再帰動詞は「動作がブーメランのように自分自身に戻ってくる」という基本概念さえ掴めば、決して難しいものではありません。むしろ、日常会話では避けて通れない必須の表現です。
本記事では、再帰動詞の基本的な「活用の仕組み」から、ネイティブが自然に使い分けている「7つのパターン(用法)」までを体系的に解説します。特にラテンアメリカのスペイン語で頻出する表現も交えて紹介します。
スペイン語の「再帰動詞」とは?
再帰動詞とは、簡単に言うと「主語が行った動作が、主語自身(自分)に返ってくる動詞」のことです。
文法用語では「再帰代名詞(me, te, se…)」を伴う動詞のことを指します。辞書で調べた際に、語尾に -se が付いている動詞(例:levantarse, lavarse)が再帰動詞です。
- Levantar(他動詞):(何かを)持ち上げる、起こす
- Levantarse(再帰動詞):自分自身を持ち上げる → 起きる、立ち上がる
このように、「他動詞」の対象を「自分」に向けることで、「自動詞」のような意味を持たせる役割があります。
再帰代名詞の仕組みと活用ルール
再帰動詞を使うためには、主語に合わせて「動詞」だけでなく、セットになる「再帰代名詞」も変化させる必要があります。
再帰代名詞の一覧
主語の人称に対応した再帰代名詞を使います。
| 主語(人称) | 再帰代名詞 |
| Yo(私) | me |
| Tú(君) | te |
| Él / Ella / Usted | se |
| Nosotros(私たち) | nos |
| Vosotros(君たち) | os |
| Ellos / Ellas / Ustedes | se |
※スペインでは「Vosotros(君たち)」を使いますが、ラテンアメリカでは親しい間柄でも複数形には「Ustedes」を使います。その場合、再帰代名詞は se になります。
動詞の活用例:Levantarse(起きる)
実際に動詞 Levantarse(起きる)を直説法現在形で活用させると以下のようになります。
| 主語 | 活用形 |
| Yo | me levanto |
| Tú | te levantas |
| Él / Ella / Usted | se levanta |
| Nosotros | nos levantamos |
| Vosotros | os levantáis |
| Ellos / Ellas / Ustedes | se levantan |
重要ポイント:
文の主語と、再帰代名詞の人称は必ず一致します。「私が(Yo)」主語なら、必ず「私を(me)」をセットにします。
× Yo se levanto(不一致のため間違い)
文のどこに置く?再帰代名詞の「3つの位置」
学習者が最もつまずきやすいのが、「me, te, se をどこに置くか」という語順のルールです。大きく分けて3つのパターンがあります。
1. 活用している動詞の「前」に置く(基本)
現在形、過去形(点過去・線過去)、現在完了形など、動詞が活用している場合は、その直前に置きます。
Yo me levanto a las siete.
直訳:私は自分自身を7時に起こす
意訳:私は7時に起きます
Yo me he levantado temprano.
直訳:私は今日、自分自身を早く起こした(完了)
意訳:私は今日、早く起きました
※現在完了(haber + 過去分詞)の場合、haberの前に置きます。haberと過去分詞の間には何も挟めないので注意してください。
2. 不定詞・現在分詞には「後ろにくっつける」ことも可能
助動詞的な動詞(querer, poder, ir a など)や、進行形(estar + 現在分詞)と一緒に使う場合、位置は「活用動詞の前」または「不定詞・現在分詞の後ろ(結合)」のどちらでも構いません。
例:座りたい(Querer + Sentarse)
Me quiero sentar.
直訳:私は私を座らせたい
意訳:私は座りたいです
Quiero sentarme.
直訳:私は私を座らせたい
意訳:私は座りたいです
どちらも意味は同じで、正しい文法です。
例:シャワーを浴びている(Estar + Duchándose)
Me estoy duchando.
直訳:私は私にシャワーを浴びさせている
意訳:私はシャワーを浴びています
Estoy duchándome.
直訳:私は私にシャワーを浴びさせている
意訳:私はシャワーを浴びています
※現在分詞の後ろにくっつける場合(duchándome)、元のアクセント位置を保つためにアクセント記号が必要になることがあります。
3. 肯定命令は「後ろ」、否定命令は「前」
命令形の場合のみ、ルールが厳格です。
- 肯定命令(~しなさい):動詞の後ろにくっつける
- 否定命令(~するな):動詞の前に置く
Levántate.
意訳:起きなさい
No te levantes.
意訳:起きるな
【重要】再帰動詞の7つの使い方とニュアンス
再帰動詞=「自分を~する」だけではありません。スペイン語では様々なニュアンスを表現するために再帰動詞が使われます。ここでは代表的な7つの用法を順に紹介します。
1. 直接再帰(自分自身を~する)
最も基本的な使い方です。「主語が自分自身に対して動作を行う」パターンです。
Me baño por la noche.
直訳:私は夜に自分を入浴させる
意訳:私は夜にお風呂に入ります
Ella se mira en el espejo.
直訳:彼女は鏡で自分自身を見る
意訳:彼女は鏡を見る
2. 間接再帰(自分の体の一部などを~する)
「自分に」対して何かを行うのですが、直接的な対象(目的語)が他にある場合です。特に「体の部位」を洗ったり触ったりする場合によく使われます。
Me lavo las manos.
直訳:私は私に手を洗わせる(私は自分に対して、手を洗う行為をする)
意訳:私は手を洗います
【重要】所有形容詞は使わない
日本語の発想で「Lavo mis manos(私の手を洗う)」とは言いません。スペイン語では「誰の手か」は再帰代名詞(me)で明らかなので、体の部位には定冠詞(las)を使います。
- 〇 Me lavo las manos.
- × Lavo mis manos.
3. 相互用法(お互いに~し合う)
主語が複数形の場合、「お互いに~する」という意味になります。
Nos vemos.
直訳:私たちは私たち(相手)を見る・会う
意訳:また会いましょう/またね
Ellos se aman.
直訳:彼らは彼ら(相手)を愛している
意訳:彼らは愛し合っている
4. 感情・精神状態の変化(~になる)
「怒る」「心配する」「驚く」などの感情の変化を表す際、再帰動詞が多用されます。ラテンアメリカでは、スペインで使われる enfadarse(怒る)よりも enojarse が一般的です。
Me enojé con él.
直訳:私は彼に対して怒った状態になった
意訳:私は彼に腹を立てた
No te preocupes.
直訳:自分を心配させるな
意訳:心配しないで
5. 意味・ニュアンスの変化(強調・完遂)
再帰動詞にすることで、動詞のニュアンスが変化したり、「完了・強調」の意味が加わったりするものがあります。
Ir(行く) vs Irse(立ち去る、行ってしまう)
Me voy a la casa.
直訳:私は家へ向けて自分を去らせる
意訳:もう帰ります(おいとまします)
※ラテンアメリカでは、その場から立ち去る際や別れ際に単なる Voy ではなく Me voy を非常によく使います。
Dormir(眠る) vs Dormirse(寝入る、眠ってしまう)
Anoche no pude dormirme.
直訳:昨晩、私は自分を眠らせることができなかった
意訳:昨晩はなかなか寝付けなかった
6. 受け身と無人称(Seを使った特殊用法)
主語が人間以外の場合や、特定の人を指さない場合に se を使います。これらは文法的には再帰構造を利用していますが、「受け身(受動態)」や「一般論」を表します。
Se vende pan.
意訳:パンが売られています(受け身)
En Argentina se come bien.
意訳:アルゼンチンは食事が美味しい(無人称:一般的に人々はよく食べる)
受け身の作り方や、無人称との違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
7. 偶発・無意志の表現(Se me…)
再帰動詞の構文を応用した、非常にユニークで重要な用法です。
「カメラを忘れてしまった(Se me olvidó la cámara)」のように、自分の意志とは無関係に「うっかり~してしまった」「(物が勝手に)~した」という状況を表します。
これを「無意志のSe(Se accidental)」と呼びます。「私が忘れた」のではなく、「カメラが(勝手に)私から忘れ去られた」というニュアンスになり、責任を回避する際や不可抗力を伝える際によく使われます。
この表現は Se(再帰) + me(人) + 動詞 という特殊な語順になります。詳しい構造や使い分けについては、以下の記事でじっくり解説しています。
【保存版】日常会話で必須の再帰動詞リスト
ラテンアメリカでの生活や旅行で頻出する再帰動詞をカテゴリ別にまとめました。
日常生活・身支度
「着る」という動作において、Vestirse は「身支度する」というニュアンスが強く、日常的に「服を着る/靴を履く」と言う場合は Ponerse がよく使われます。
- levantarse: 起きる
- acostarse: 寝る、横になる
- despertarse: 目が覚める
- bañarse / ducharse: お風呂に入る/シャワーを浴びる
- cepillarse (los dientes): (歯を)磨く
- ponerse (la ropa): (服などを)着る、身につける
動作・移動
※注意:ラテンアメリカの一部(メキシコやアルゼンチン等)では、Coger(取る・掴む)が性的な意味を持つため避けられます。代わりに Tomar や Agarrar を使いましょう。
- sentarse: 座る
- pararse: 立ち上がる(※ラテンアメリカで頻出。「止まる」の意味もあり文脈による)
- irse: 行ってしまう、立ち去る
- quedarse: とどまる、残る
- subirse: (車やバスに)乗る
- bajarse: (車やバスから)降りる
感情・思考
前置詞とセットで覚えるのがコツです。
- llamarse: ~という名前である(自分を~と呼ぶ)
- enojarse (con): (~に)怒る
- preocuparse (por): (~を)心配する
- acordarse (de): (~を)覚えている、思い出す
- darse cuenta (de): (~に)気づく
- quejarse (de): (~の)文句を言う、不平を言う
まとめ:再帰動詞をマスターするコツ
再帰動詞は「自分に矢印が戻ってくる」というイメージを持つことが習得への近道です。
- 仕組み:主語と再帰代名詞(me, te, se)は必ず一致させる。
- 位置:基本は動詞の前。命令形や不定詞のときは注意。
- 用法:「自分を~する」以外にも「相互」「強調」「受け身」「偶発」などがある。
まずは Me levanto, Te levantas, Se levanta と、口に出してリズムで活用を覚えてしまいましょう。




