スペイン語学習において、最初の大きな壁となるのが「再帰動詞」です。「meとかseとか、どこに付ければいいの?」「普通の動詞と何が違うの?」と混乱してしまう方は少なくありません。
しかし、再帰動詞は「動作が自分自身に戻ってくる(ブーメランのようなイメージ)」という基本概念さえ掴めば、決して難しいものではありません。むしろ、日常会話では避けて通れない必須の表現です。
本記事では、再帰動詞の基本的な「活用の仕組み」から、ネイティブが自然に使い分けている「6つのパターン(用法)」までを体系的に解説します。特にラテンアメリカのスペイン語で頻出する表現も交えて紹介します。
スペイン語の再帰動詞とは?
再帰動詞とは、簡単に言うと「主語が行った動作が、主語自身(自分)に返ってくる動詞」のことです。
文法用語では「再帰代名詞(me, te, se, nos, os, se)」を伴う動詞のことを指します。辞書で調べた際に、語尾に -se が付いている動詞(例:levantarse, lavarse)が再帰動詞です。
- Levantar(他動詞):(何かを)持ち上げる、起こす
- Levantarse(再帰動詞):自分自身を持ち上げる → 起きる、立ち上がる
このように、「他動詞」の対象を「自分」に向けることで、「自動詞」のような意味を持たせる役割があります。
再帰動詞の仕組みと活用ルール(基本編)
再帰動詞を使うためには、主語に合わせて「動詞」だけでなく、セットになる「再帰代名詞」も変化させる必要があります。
再帰代名詞の一覧
主語の人称に対応した再帰代名詞を使います。
| 主語 | 再帰代名詞 | 日本語のイメージ |
|---|---|---|
| Yo(私) | me | 私を/私に |
| Tú(君) | te | 君を/君に |
| Él / Ella / Usted (彼/彼女/あなた) | se | 自分を/自分に |
| Nosotros(私たち) | nos | 私たちを/私たちに |
| Vosotros(君たち) | os | 君たちを/君たちに |
| Ellos / Ellas / Ustedes (彼ら/彼女ら/あなたたち) | se | 自分たちを/自分たちに |
※ラテンアメリカでは「Vosotros(君たち)」は使わず、親しい間柄でも複数形には「Ustedes」を使います。その場合、再帰代名詞は se になります。
動詞の活用例:Levantarse(起きる)
実際に動詞 Levantarse(起きる)を直説法現在形で活用させると以下のようになります。
| Yo | me levanto |
| Tú (Vos) | te levantas (te levantás) |
| Él / Ella / Usted | se levanta |
| Nosotros | nos levantamos |
| Vosotros | os levantáis |
| Ellos / Ellas / Ustedes | se levantan |
ポイント:
文の主語と、再帰代名詞の人称は必ず一致します。「私が(Yo)」主語なら、必ず「私を(me)」をセットにします。
× Yo se levanto(不一致のため間違い)
再帰代名詞を置く位置のルール
学習者が最もつまずきやすいのが、「me, te, se をどこに置くか」という語順のルールです。大きく分けて3つのパターンがあります。
1. 活用している動詞の「前」に置く(基本)
現在形、過去形(点過去・線過去)、現在完了形など、動詞が活用している場合は、その直前に置きます。
Yo me levanto a las siete.
直訳:私は自分自身を7時に起こす
意訳:私は7時に起きます
Yo me he levantado temprano.
直訳:私は今日、自分自身を早く起こした(完了)
意訳:私は今日、早く起きました
※現在完了(haber + 過去分詞)の場合、haberの前に置きます。haberと過去分詞の間には何も挟めないので注意してください。
2. 不定詞・現在分詞には「後ろにくっつける」ことも可能
助動詞的な動詞(querer, poder, ir a など)や、進行形(estar + 現在分詞)と一緒に使う場合、位置は「活用動詞の前」または「不定詞・現在分詞の後ろ(結合)」のどちらでも構いません。
例:座りたい(Querer + Sentarse)
Me quiero sentar.
直訳:私は私を座らせたい
意訳:私は座りたいです
Quiero sentarme.
直訳:私は私を座らせたい
意訳:私は座りたいです
どちらも意味は同じで、正しい文法です。
例:シャワーを浴びている(Estar + Duchándose)
Me estoy duchando.
直訳:私は私にシャワーを浴びさせている
意訳:私はシャワーを浴びています
Estoy duchándome.
直訳:私は私にシャワーを浴びさせている
意訳:私はシャワーを浴びています
※現在分詞の後ろにくっつける場合(duchándome)、元のアクセント位置を保つためにアクセント記号が必要になることがあります。
3. 肯定命令は「後ろ」、否定命令は「前」
命令形の場合のみ、ルールが厳格です。
- 肯定命令(~しなさい):動詞の後ろにくっつける
- 否定命令(~するな):動詞の前に置く
Levántate.
意訳:起きなさい
No te levantes.
意訳:起きるな
スペイン語の再帰動詞 6つの使い方・用途
再帰動詞=「自分を~する」だけではありません。スペイン語では様々なニュアンスを表現するために再帰動詞が使われます。ここでは代表的な6つの用法を紹介します。
1. 直接再帰(自分自身を~する)
最も基本的な使い方です。「主語が自分自身に対して動作を行う」パターンです。
Me baño por la noche.
直訳:私は夜に自分を入浴させる
意訳:私は夜にお風呂に入ります
Ella se mira en el espejo.
直訳:彼女は鏡で自分自身を見る
意訳:彼女は鏡を見る
2. 間接再帰(自分の体の一部などを~する)
「自分に」対して何かを行うのですが、直接的な対象(目的語)が他にある場合です。特に「体の部位」を洗ったり触ったりする場合によく使われます。
Me lavo las manos.
直訳:私は私に手を洗わせる(私は自分に対して、手を洗う行為をする)
意訳:私は手を洗います
重要:
日本語の発想で「Lavo mis manos(私の手を洗う)」とは言いません。スペイン語では「誰の手か」は再帰代名詞(me)で明らかなので、体の部位には定冠詞(las)を使います。
- 〇 Me lavo las manos.
- × Lavo mis manos.
3. 相互用法(お互いに~し合う)
主語が複数形の場合、「お互いに~する」という意味になります。
Nos escribimos.
直訳:私たちは私たち(相手)に書く
意訳:連絡を取り合いましょう(メールなどをし合いましょう)
Ellos se aman.
直訳:彼らは彼ら(相手)を愛している
意訳:彼らは愛し合っている
4. 感情・精神状態の変化(~になる)
「怒る」「心配する」「驚く」などの感情の変化を表す際、再帰動詞が多用されます。ラテンアメリカでは、スペインで使われる enfadarse(怒る)よりも enojarse が一般的です。
Me enojé con él.
直訳:私は彼に対して怒った状態になった
意訳:私は彼に腹を立てた
No te preocupes.
直訳:自分を心配させるな
意訳:心配しないで
5. 意味・ニュアンスの変化(強調・完遂)
再帰動詞にすることで、動詞のニュアンスが変化したり、「完了・強調」の意味が加わったりするものがあります。
Ir(行く) vs Irse(立ち去る、行ってしまう)
Me voy a la casa.
直訳:私は家へ向けて自分を去らせる
意訳:もう帰ります(おいとまします)
※ラテンアメリカでは、その場から立ち去る際や別れ際に単なる Voy ではなく Me voy を非常によく使います。
Comer(食べる) vs Comerse(平らげる、食べてしまう)
Se comió todo el pastel.
直訳:彼はケーキを全て平らげた
意訳:彼はケーキを全部食べてしまった
6. 受け身と無人称(Seを使った特殊用法)
主語が人間以外の場合や、特定の人を指さない場合に se を使います。これらは文法的には再帰構造を利用していますが、「受け身(受動態)」や「一般論」を表します。
受け身(受動態)
「~される」「~売られている」など。動詞は主語(事物)の単数・複数に一致します。
Se vende pan.
意訳:パンが売られています
Se venden flores.
意訳:花(複数)が売られています
無人称(不定人称)
「(一般的に)~と言われている」「(人は)~するものだ」など、主語を特定しない表現です。動詞は常に3人称単数です。
En Argentina se come bien.
直訳:アルゼンチンでは(一般的に人々は)よく食べる
意訳:アルゼンチンは食事が美味しい
受け身の作り方や、無人称との違いについては、詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
【一覧】日常会話で必須の再帰動詞リスト
ラテンアメリカでの生活や旅行で頻出する再帰動詞をカテゴリ別にまとめました。
日常生活・身支度
- levantarse: 起きる
- acostarse: 寝る、横になる
- despertarse: 目が覚める
- bañarse / ducharse: お風呂に入る/シャワーを浴びる
- cepillarse (los dientes): (歯を)磨く
- vestirse / cambiarse: 着替える
動作・移動
- sentarse: 座る
- pararse: 立ち上がる(※ラテンアメリカでよく使う。「止まる」の意味もあり文脈による)
- irse: 行ってしまう、立ち去る
- quedarse: とどまる、残る
感情・思考
- llamarse: ~という名前である(自分を~と呼ぶ)
- enojarse: 怒る
- preocuparse: 心配する
- equivocarse: 間違える
- olvidarse: 忘れる
まとめ:再帰動詞をマスターするコツ
再帰動詞は「自分に矢印が戻ってくる」というイメージを持つことが習得への近道です。
- 仕組み:主語と再帰代名詞(me, te, se)は必ず一致させる。
- 位置:基本は動詞の前。命令形や不定詞のときは注意。
- 用法:「自分を~する」以外にも「相互」「強調」「受け身」などがある。
まずは Me levanto, Te levantas, Se levanta と、口に出してリズムで活用を覚えてしまいましょう。
また、再帰動詞には「カメラを忘れてしまった(Se me olvidó la cámara)」のように、自分の意志とは無関係に「うっかり~してしまった」ことを表す特殊な用法もあります。
この「責任回避のSe」とも呼ばれる面白い表現については、以下の記事で詳しく解説しています。



