スペイン語の me gusta は「私は~が好き」という意味で使われますが、直訳して文法構造を理解しようとすると、日本語とは大きく異なることに気がつきます。
例えば、日本語で「私はパイナップルが好きです」と言う場合、主語は「私」です。しかし、スペイン語の me gusta という表現において、文法上の主語は「パイナップル」になります。
これは、動詞 gustar が、主語と目的語(好きな対象)の関係を逆転させる「特殊な動詞」だからです。この構造はスペイン語学習における最初の難関の一つですが、ロジックを理解すれば決して難しくありません。
この記事では、gustar動詞の仕組みと正しい使い方、そして会話で頻出する「私も好き」の正しい表現方法について解説します。
gustar の主語は「好まれる対象」
前述の通り、gustar を使う際、日本語の「私(好きな人)」は文法上の主語にはなりません。
スペイン語の文法上の主語は「好まれる対象(モノや人)」であり、「好きな人(日本語での主語)」は間接目的語として表されます。
わかりやすく、直訳(文法通りの意味)と意訳(自然な日本語)を比較してみましょう。
例)Me gusta la piña.
- 直訳:パイナップルが、私を(気に入らせる / 喜ばせる)。
- 意訳:私はパイナップルが好きです。
構造を図解すると以下のようになります。
| Me | gusta | la piña |
|---|---|---|
| 私に (間接目的語) | 気に入らせる (動詞) | パイナップルが (主語) |
直訳の「パイナップルが私を好きにさせる」という感覚は、日本人には馴染みが薄く混乱しやすいポイントです。
そのため、慣れるまでは理屈を考えすぎず、以下のフレーズとして定着させてしまうことをおすすめします。
「私は〇〇が好き」 = Me gusta(n) 〇〇
この「私に」にあたる部分(間接目的格人称代名詞)は、誰が好きなのかによって以下のように変化します。
| 人称 | 間接目的語 |
| 私(Yo) | me |
| 君(Tú / Vos) | te |
| 彼、彼女、あなた(Él, Ella, Usted) | le |
| 私たち(Nosotros) | nos |
| 君たち(Vosotros) | os |
| 彼ら、彼女ら、あなた方(Ellos, Ellas, Ustedes) | les |
「好きなもの」が単数か複数かで動詞が変化する
文法上の主語は「好きな対象」であるため、動詞 gustar の活用(gusta か gustan か)は、好きな対象が単数か複数かによって決まります。
対象が単数の場合:gusta
「私はパイナップルが好き」の場合、主語であるパイナップル(la piña)は単数形です。そのため、動詞は三人称単数の gusta となります。
Me gusta la piña.
私はパイナップルが好きです。
対象が複数の場合:gustan
「私はリンゴとパイナップルが好き」の場合、主語は「リンゴとパイナップル(la manzana y la piña)」で複数となります。そのため、動詞は三人称複数の gustan となります。
Me gustan la manzana y la piña.
私はリンゴとパイナップルが好きです。
また、名詞自体が複数形(las piñas)の場合も同様に gustan を使用します。
Me gustan las piñas.
私は(複数の)パイナップルが好きです。
動詞 gustar のより詳しい活用パターンについては、以下の記事も参考にしてください。
対象が「人」の場合の表現パターン
「私は君が好き」「彼は私が好き」など、好意を寄せる対象が「人」の場合も考え方は同じです。
主語(好かれる人)に合わせて gustar を活用させます。
ここでは学習や会話でよく使われるパターンをまとめました。
1. 対象が「三人称(彼・彼女・それ)」の場合
日常会話で最もよく使われる形です。「誰が」好きなのかによって、me, te, le などを使い分けます。
| 私はパイナップルが好きです | Me gusta la piña. |
| 君はパイナップルが好きです | Te gusta la piña. |
| 彼(彼女)はパイナップルが好きです | Le gusta la piña. |
| 私たちはパイナップルが好きです | Nos gusta la piña. |
| 君たちはパイナップルが好きです | Os gusta la piña. |
| 彼ら(彼女ら)はパイナップルが好きです | Les gusta la piña. |
2. 対象が「二人称(君)」の場合
「(誰かが)君のことを好き」と言う場合、主語は「君」になるため、動詞は二人称単数の gustas(túの場合)または gustás(vosの場合)となります。
| 私は君が好きです | Me gustas tú. Me gustás vos.(中南米など) |
| 彼(彼女)は君が好きです | Le gustas tú. Le gustás vos. |
| 私たちは君が好きです | Nos gustas tú. Nos gustás vos. |
| 彼ら(彼女ら)は君が好きです | Les gustas tú. Les gustás vos. |
※ vos はアルゼンチンや中米などで使われる二人称単数です。
ちなみに「君が好きです(Me gustas)」というフレーズは文法的に正しいですが、恋愛的な意味での「愛している」を伝える場合は、他の表現を使うのが一般的です。
3. 対象が「一人称(私)」の場合
「(誰かが)私のことを好き」と言う場合、主語は「私」になるため、動詞は一人称単数の gusto となります。
| 君は私のことが好きですか? | ¿Te gusto yo? |
| 彼(彼女)は私のことが好きですか? | ¿Le gusto yo? |
「私も好き」と言う時に Yo también は間違い
会話の中で、相手が “Me gusta la piña.”(私はパイナップルが好き)と言ったのに対して、「私も(パイナップルが)好きです」と同意したい場合、注意が必要です。
つい日本語の感覚で、以下のように言いたくなるかもしれません。
× Yo también.
しかし、これは間違いです。
ここまでの説明の通り、gustar 構文の主語は「好きな対象(パイナップル)」です。もし “Yo también”(私もまた)と言ってしまうと、文脈上「私も(パイナップルと同じように)主語である」=「私もパイナップルです」あるいは「私も君に好かれています」といった不自然な意味になりかねません。
正解は A mí también
正しくは、以下のように表現します。
◎ A mí también.
「私はパイナップルが好き」という文を省略せずに強調して言うと、”A mí me gusta la piña.” となります。
「私に(A mí)」対して好ましい、という構造になっているため、同意する場合も主語(Yo)ではなく、前置詞 a を伴う強調形(A mí)を使って “A mí también” と答えるのがルールです。
まとめ
スペイン語の gustar は「主語と目的語が逆転する」という特徴を持つため、最初は戸惑うかもしれません。しかし、以下の2点を押さえておけば基本はマスターできます。
- 文法上の主語は「好きな対象(モノ・人)」
→ 動詞の活用(gusta / gustan)はこれで決まる。 - 「好きな人(自分など)」は「間接目的語」になる
→ me, te, le などで表す。
特に「私も好き」と言う時の “A mí también” は、日常会話で非常によく使うフレーズですので、セットで覚えておきましょう。

