スペイン語の動詞 ir(行く)は、日常会話で最も頻繁に使われる動詞の一つですが、同時に最も不規則に変化する動詞でもあります。
「行く」という移動の意味だけでなく、未来を表したり、再帰動詞 irse になるとニュアンスが変わったりと、非常に多くの機能を持っています。
この記事では、ir のすべての活用パターンと、ラテンアメリカでも通じる自然な使い方、そして学習者がつまずきやすい「serとの混同」や「irとirseの違い」について詳しく解説します。
スペイン語の動詞 ir の活用表
ir は非常に特殊な不規則変化をします。特に直説法現在、点過去、線過去、接続法において、原形からは想像もつかない形に変化するため、一つずつ確実に覚える必要があります。
分詞(現在分詞・過去分詞)
現在分詞は iendo ではなく yendo となる点に注意してください。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| 現在分詞 | yendo |
| 過去分詞 | ido |
直説法現在形の活用
原形 ir の痕跡がまったく残らない、完全な不規則変化です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | voy |
| tú / vos | vas / vas |
| él / ella / usted | va |
| nosotros / nosotras | vamos |
| vosotros / vosotras | vais |
| ellos / ellas / ustedes | van |
直説法点過去形の活用
点過去形も完全な不規則変化です。非常に重要な点として、動詞 ser(〜である)の点過去形と完全に同じ形になります。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | fui |
| tú | fuiste |
| él / ella / usted | fue |
| nosotros / nosotras | fuimos |
| vosotros / vosotras | fuisteis |
| ellos / ellas / ustedes | fueron |
【重要】ir と ser の点過去形の見分け方
形は同じですが、文脈と後ろに来る言葉で判断します。
ir の場合:後ろに場所を表す言葉や前置詞 a(〜へ)が来ることが多いです。
ser の場合:後ろに形容詞や名詞(職業や性質)が来ます。Fui a Guatemala el año pasado.
(私は昨年グアテマラへ行った:ir)La fiesta fue divertida.
(パーティーは楽しかった:ser)
直説法線過去形の活用
ar動詞の線過去活用(-aba)に似ていますが、先頭が i で始まる不規則変化です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | iba |
| tú | ibas |
| él / ella / usted | iba |
| nosotros / nosotras | íbamos |
| vosotros / vosotras | ibais |
| ellos / ellas / ustedes | iban |
直説法未来形の活用
未来形は規則変化です。不定詞 ir の後ろに語尾を付けます。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | iré |
| tú | irás |
| él / ella / usted | irá |
| nosotros / nosotras | iremos |
| vosotros / vosotras | iréis |
| ellos / ellas / ustedes | irán |
可能法(過去未来)の活用
可能法も規則変化です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | iría |
| tú | irías |
| él / ella / usted | iría |
| nosotros / nosotras | iríamos |
| vosotros / vosotras | iríais |
| ellos / ellas / ustedes | irían |
命令法の活用
肯定命令と否定命令で形が異なります。特に tú への肯定命令 Ve は非常に短くなるため注意が必要です。
また、ラテンアメリカの一部で使われる vos に対する肯定命令は、習慣的に動詞 andar の命令形である andá が代用されます。
| 主語 | 肯定命令 | 否定命令 |
|---|---|---|
| tú | ve | no vayas |
| vos | andá | no vayás |
| usted | vaya | no vaya |
| nosotros | vamos / vayamos | no vayamos |
| vosotros | id | no vayáis |
| ustedes | vayan | no vayan |
接続法現在形の活用
直説法現在形の1人称単数(voy)の語幹ではなく、独自の不規則変化をします。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | vaya |
| tú / vos | vayas / vayás |
| él / ella / usted | vaya |
| nosotros / nosotras | vayamos |
| vosotros / vosotras | vayáis |
| ellos / ellas / ustedes | vayan |
接続法過去形(ra形)の活用
直説法点過去(fueron)をベースにした不規則変化です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | fuera |
| tú | fueras |
| él / ella / usted | fuera |
| nosotros / nosotras | fuéramos |
| vosotros / vosotras | fuerais |
| ellos / ellas / ustedes | fueran |
スペイン語の動詞 ir の基本的な意味と使い方
ここからは、ir を使った実践的な表現を紹介します。
1. 移動する・行く(ir a / ir para)
目的地へ向かう最も基本的な用法です。教科書では「ir a」を習いますが、ラテンアメリカの日常会話では「ir para」も頻繁に使われます。
Voy al mercado.
直訳:私は市場へ行く。
意訳:市場に行ってきます。
Voy para la oficina.
直訳:私はオフィスの方へ向かう。
意訳:オフィスに向かっているところだよ。
- ir a 〜:目的地への到達に焦点を当てた、最も一般的な表現。
- ir para 〜:方向を強調し、「そっちの方へ向かう」というニュアンス。少しカジュアルな響きがあります。
2. 〜するつもりです(ir a + 不定詞)
「ir a + 動詞の原形」で、近い未来の予定や意志を表します。日常会話では、直説法未来形よりも圧倒的にこの形が使われます。
Voy a viajar a España.
直訳:私はスペインへ旅行するつもりです。
意訳:スペイン旅行に行く予定なんだ。
Va a llover.
直訳:雨が降るつもりだ(向かっている)。
意訳:雨が降りそうだね。
この表現は「すでに決まっている予定」や「高い確率で起こること」によく使われます。
※「直説法未来形」との厳密なニュアンスの違い(確信度や予測など)については、未来形の解説記事で詳しく説明しています。
3. さぁ〜しよう(Vamos a + 不定詞)
相手を誘う「〜しよう」という表現です。
Vamos a comer.
直訳:私たちは食べるつもりです。
意訳:ご飯を食べようよ。
4. (だんだん)〜していく(ir + 現在分詞)
「ir + 現在分詞(-ndo)」で、動作が進行しながら徐々に変化していく様子を表します。
La situación va mejorando poco a poco.
直訳:状況は少しずつ良くなりつつ進んでいる。
意訳:状況は徐々に良くなっている。
5. 似合う・機能する
服が似合うかどうかや、機械が動くかどうかを言う際にも使います。
No te va bien esa gorra.
直訳:その帽子は君に良く行かない。
意訳:そのキャップ、君には似合わないよ。
Internet no va.
直訳:インターネットが行かない。
意訳:ネットが繋がらない。
重要:再帰動詞 irse「行ってしまう」との違い
動詞 ir に再帰代名詞がついた irse(me voy, te vas…)は、「行く」ではなく「去る」「ここから居なくなる」という意味になります。日本語では同じ「行く」と訳せる場面もありますが、ニュアンスが明確に異なります。
- ir:目的地に向かうことに焦点がある(〜へ行く)
- irse:今いる場所から離れることに焦点がある(もう行くね、失礼する)
Voy a la fiesta.
直訳:私はパーティーへ行く。
意訳:これからパーティーに行くよ。(目的地の話題)
Me voy de la fiesta.
直訳:私はパーティーから去る。
意訳:パーティーから帰るね。(退出の話題)
Ya me voy.
直訳:もう私は去ります。
意訳:そろそろ行きますね(帰りますね)。
会話で役立つ ir を使った熟語・慣用句
¡Vaya!(なんてことだ!)
接続法現在形の vaya は、驚きや怒り、呆れなどを表す感嘆詞(間投詞)として非常によく使われます。
¡Vaya! No lo sabía.
直訳:行け!私はそれを知らなかった。
意訳:なんてこった!全然知らなかったよ。
¡Vamos!(さあ! / がんばれ!)
勧誘だけでなく、気合を入れる掛け声や、相手を急かす時にも使います。
¡Vamos! ¡Tú puedes!
直訳:行こう!君はできる!
意訳:行けー!君ならできるよ!
ir por 〜(〜を取りに行く / 〜を迎えに行く)
「ir + por + 名詞」で、物を取りに行ったり、人を迎えに行ったりする動作を表します。
ir a buscar(〜を探しに行く)と同じ意味ですが、ラテンアメリカの日常会話では短く言いやすい ir por が非常に好んで使われます。
Voy por azúcar.
直訳:私は砂糖のために行く。
意訳:砂糖を買ってくるよ(取ってくるよ)。
Voy por ti a las seis.
直訳:私は6時に君のために行く。
意訳:6時に君を迎えに行くね。
このように「目的(〜のために)」を表す前置詞 por を使うことで、「それを手に入れる(ピックアップする)ために行く」というニュアンスになります。
ir de compras / ir de copas
「ir de + 名詞」で「〜しに行く」という活動を表します。
Mi madre va de compras.
直訳:母は買い物の(状態で)行く。
意訳:母は買い物に行きます。
まとめ
スペイン語の ir は、活用の不規則性が高いだけでなく、意味の幅も非常に広い動詞です。
- 活用:現在形や点過去形は原型をとどめない変化をする。特に点過去は ser と同形。
- 意味:単なる移動だけでなく、未来(ir a)、進行(ir + ndo)、適合(似合う)なども表す。
- 使い分け:目的地へ向かう ir と、その場を去る irse の違いを意識する。
まずは基本の活用をマスターし、日常会話で多用される「Voy a…(〜するつもり)」や「Me voy(もう行くね)」といったフレーズから使ってみてください。

