スペイン語の動詞 poder は、「〜できる(可能)」という意味を持つ最も重要な動詞の一つです。日常会話では、自分の能力を伝えるだけでなく、「〜してもいいですか?(許可)」や「〜していただけますか?(依頼)」など、人間関係を円滑にするために頻繁に使われます。
この記事では、poder の全活用パターンから、似ている動詞 saber との違い、そして日本人学習者が最も悩みやすい「点過去(pude)」と「線過去(podía)」のニュアンスの違いまでを詳しく解説します。
動詞 poder の活用表(現在・過去・未来・命令・接続法)
poder は不規則活用をする動詞です。活用のポイントは主に以下の2点です。
- 語幹母音変化(o ⇒ ue): 直説法現在、接続法現在、命令法などで「o」が「ue」に変わります。
- 語幹母音変化(o ⇒ u): 現在分詞や点過去、接続法過去などで「o」が「u」に変わります。
また、ラテンアメリカの一部の国(アルゼンチン、ウルグアイ、中米諸国など)で使われる二人称単数「vos(あんた、君)」の活用も併記しています。
分詞(現在分詞・過去分詞)
現在分詞は語幹の o が u に変化して pudiendo になる点に注意してください。
| 種類 | 活用 |
|---|---|
| 現在分詞 | pudiendo |
| 過去分詞 | podido |
直説法(現在・点過去・線過去・未来)
直説法現在形
「私は〜できる」と現在の能力や許可を表す形です。nosotros と vosotros 以外は o が ue に変化します。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | puedo |
| tú / vos | puedes / podés |
| él / ella / usted | puede |
| nosotros / nosotras | podemos |
| vosotros / vosotras | podéis |
| ellos / ellas / ustedes | pueden |
直説法点過去形
過去の特定の時点で「できた(達成した)」ことを表す際に使います。不規則変化動詞です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | pude |
| tú | pudiste |
| él / ella / usted | pudo |
| nosotros / nosotras | pudimos |
| vosotros / vosotras | pudisteis |
| ellos / ellas / ustedes | pudieron |
直説法線過去形
過去において「できる状態だった(能力があった)」ことを表します。こちらは規則活用です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | podía |
| tú | podías |
| él / ella / usted | podía |
| nosotros / nosotras | podíamos |
| vosotros / vosotras | podíais |
| ellos / ellas / ustedes | podían |
直説法未来形
「〜できるだろう」という未来の予測や意思を表します。語幹が podr- となる不規則変化です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | podré |
| tú | podrás |
| él / ella / usted | podrá |
| nosotros / nosotras | podremos |
| vosotros / vosotras | podréis |
| ellos / ellas / ustedes | podrán |
可能法(過去未来)
「〜できるかもしれない(推量)」や、丁寧な依頼「〜していただけますか?」で使われる重要な形です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | podría |
| tú | podrías |
| él / ella / usted | podría |
| nosotros / nosotras | podríamos |
| vosotros / vosotras | podríais |
| ellos / ellas / ustedes | podrían |
命令法(肯定・否定)
poder を命令形で使うことは稀ですが、文法知識として押さえておきましょう。肯定命令の vos(アルゼンチンなど)は、不規則な変化(podé)をします。
| 主語 | 肯定命令 | 否定命令 |
|---|---|---|
| tú | puede | no puedas |
| vos | podé | no podás |
| usted | pueda | no pueda |
| nosotros | podamos | no podamos |
| vosotros | poded | no podáis |
| ustedes | puedan | no puedan |
接続法(現在・過去)
接続法現在形
「〜できることを願う」など、主観的な気持ちや疑惑を表す文脈で使われます。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | pueda |
| tú / vos | puedas / podás |
| él / ella / usted | pueda |
| nosotros / nosotras | podamos |
| vosotros / vosotras | podáis |
| ellos / ellas / ustedes | puedan |
接続法過去形(ra形)
「もし〜できたら」といった仮定法などで多用されます。直説法点過去(pudieron)がベースとなり、語幹が u に変わります。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | pudiera |
| tú | pudieras |
| él / ella / usted | pudiera |
| nosotros / nosotras | pudiéramos |
| vosotros / vosotras | pudierais |
| ellos / ellas / ustedes | pudieran |
動詞 poder の基本的な意味と使い方
poder は助動詞として機能し、基本的には「poder + 不定詞(動詞の原形)」の形で使われます。主な4つの意味を見ていきましょう。
1. 能力・可能「〜できる」
その状況において「〜することが可能である」という意味を表します。
¿Puedes hablar español?
直訳:君はスペイン語を話すことができますか?
意訳:スペイン語を話せますか?
poder と saber の違い
「〜できる」と訳される動詞には saber もありますが、使い分けが必要です。
- Saber: 学習や訓練によって身につけた「知識・スキル」としての能力。(泳げる、運転できる、ピアノが弾けるなど)
- Poder: その時の状況や条件によって「実行可能である」こと。(怪我をしていないから泳げる、車があるから運転できるなど)
この2つの動詞の詳しい使い分けやニュアンスの違いについては、別記事「スペイン語の saber と poder の違いと使い分け」で深掘りして解説していますので、あわせて参考にしてください。
以下の例文で違いを確認しましょう。
Sé tocar la guitarra, pero hoy no puedo tocarla porque me lastimé el dedo.
直訳:私はギターを弾くことを知っているが、今日は指を怪我したから、それを弾くことができない。
意訳:ギターは弾けるけれど、今日は指を怪我しているから弾けません。
2. 許可「〜してもよい」
相手に許可を求めたり、許可を与えたりする場合に使います。
¿Puedo sentarme aquí?
直訳:私はここに座ることができますか?
意訳:ここに座ってもいいですか?
Sí, claro, puedes usar mi teléfono.
直訳:はい、もちろん、君は私の電話を使うことができる。
意訳:ええ、もちろん私の電話を使っていいよ。
3. 依頼「〜してくれませんか」
相手に何かをお願いする時にも poder を使います。活用の種類を変えることで、丁寧さの度合いを調整できます。
- ¿Puedes…?(親しい間柄・カジュアル)
- ¿Podrías…?(丁寧・標準的)
- ¿Podría…?(非常に丁寧・距離感がある)
親しい友達にマテ茶(南米でよく飲まれるお茶)を回してほしい時は、このように言います。
¿Puedes pasarme el mate?
直訳:君は私にマテ茶を手渡すことができますか?
意訳:マテ茶を取ってくれる?
お店や、あまり親しくない人に対しては、過去未来形(Podría)を使うと丁寧です。
¿Podría usted decirme dónde está el baño?
直訳:あなたはトイレがどこにあるか私に言うことができますでしょうか?
意訳:トイレがどこにあるか教えていただけますか?
4. 推量・可能性「〜かもしれない」
「〜する可能性がある」「〜であり得る」という推測を表します。特に以下の2つのフレーズは、会話のリアクション(相槌)として非常によく使われます。
Puede ser.
直訳:あり得る。
意訳:そうかもね。(もしかしたらね)
No puede ser.
直訳:あり得ない。
意訳:そんなはずはない。(まさか!)
もちろん、通常の文としても使われます。
Él puede haber llegado a su casa.
直訳:彼は彼の家に到着したことができる。
意訳:彼はもう家に着いたかもしれない。
【重要】点過去 (pude) と線過去 (podía) の意味の違い
学習者が最もつまずきやすいのが、過去形における意味の違いです。日本語ではどちらも「できた」と訳せますが、スペイン語では明確に区別されます。
点過去 (pude):達成「(実際に)〜できた」
点過去の pude は、過去の特定の場面で「努力した結果、実際にその行為を完了した(達成した)」ことを意味します。
Ayer perdí las llaves, pero finalmente pude entrar en casa.
直訳:昨日私は鍵を失くしたが、最終的に家に入ることができた。
意訳:昨日鍵を失くしちゃったけど、なんとか家には入れたよ。(=家に入った)
線過去 (podía):状況・能力「〜できる状態だった」
線過去の podía は、過去のその時点で「〜する能力があった」「〜できる状況だった」という状態説明です。実際にその行為をしたかどうかは重要ではありません(文脈によっては「できたけど、しなかった」ことを示唆する場合もあります)。
Ayer podía terminar el trabajo, pero no quise.
直訳:昨日私は仕事を終えることができたが、欲しなかった。
意訳:昨日仕事を終わらせることはできたけど(時間や能力はあったけど)、やりたくなかったんだ。
もしここで pude terminar と言うと、「(大変だったけど)仕事を終わらせた」という意味になり、「やりたくなかった」という後半の文と矛盾してしまいます。
覚えておきたい poder を使った慣用表現
日常会話でよく使われるフレーズを紹介します。
No puedo más.
直訳:私はこれ以上できない。
意訳:もう無理、我慢できない、限界だ。
A más no poder.
直訳:できない以上まで。
意訳:これ以上ないほど、精一杯。
また、poder は名詞として「力」「権力」という意味も持ちます。
El conocimiento es poder.
直訳:知識は力だ。
意訳:知は力なり。
まとめ
スペイン語の動詞 poder は、活用が不規則で少し複雑ですが、日常会話で欠かせない非常に便利な動詞です。
- 活用では、語幹の o ⇒ ue と o ⇒ u の変化に注意しましょう。
- Saber(知識・技術)と Poder(状況・可能性)の違いを理解しましょう。
- 過去形では、Pude(達成した)と Podía(能力があった)を使い分けましょう。
まずは「Puedo(私はできる)」や「Puede ser(そうかもね)」といった簡単なフレーズから積極的に使ってみてください。
