スペイン語学習において、多くの人がつまずくのが前置詞 por と para の使い分けです。日本語に訳すとどちらも「~のために」となる場面が多く、混乱の原因となりがちです。
しかし、この2つには明確な「イメージの違い」があります。
- por(ポル):原因・理由・経過(後ろから押されるイメージ)
- para(パラ):目的・ゴール・期限(前へ向かうイメージ)
本記事では、por と para の基本的な意味を整理し、まったく同じ文章で前置詞を入れ替えた際にどのようなニュアンスの変化が生まれるのかを解説します。
スペイン語 por(ポル)の主な意味と使い方
por は非常に多義的ですが、基本的には「原因」「通過」「交換」といったニュアンスを持ちます。「~によって」「~の辺り」「~経由で」などと訳されます。
原因や理由(動機)を表す
「~のせいで」「~が理由で」という、行動の原因を表します。
Castigaron a la niña por llegar tarde.
直訳:遅れて到着したことによって、彼らは少女を罰した。
意訳:その少女は遅刻したので罰を受けた。
No salgo por la lluvia.
直訳:雨(という原因)によって私は出かけない。
意訳:今日は雨なので外出しません。
Voy al mercado por los comestibles.
直訳:食料品(を求めて)のために市場へ行く。
意訳:私は食料品を買いに市場へ行きます。
最後の例文の ir por ~ は「~を取りに行く」「~を迎えに行く」という意味で頻出します。文脈により、comprar(買う)という動詞がなくても「(物を求めて)買いに行く」と解釈されます。
おおよその場所・通過を表す
場所をピンポイントではなく、「~ら辺」「~を通って」とあいまいに指す場合や、移動の経路を表す場合に使います。
La farmacia queda por aquí cerca.
直訳:薬局はこの近くの辺りにある。
意訳:薬局はこの辺りにあります。
Los ladrones entraron por la ventana.
直訳:泥棒たちは窓を通って入った。
意訳:泥棒たちは窓から侵入した。
Mi abuelo pasea por el parque.
直訳:祖父は公園(の中)を通って散歩する。
意訳:祖父は公園を散歩します。
期間やあいまいな日時を表す
「~の間(期間)」や、「~頃(漠然とした時間)」を表します。
Estudio por una semana.
直訳:私は1週間の間、勉強する。
意訳:私は1週間勉強します。
Ella está en España por dos meses.
直訳:彼女は2か月の間、スペインにいる。
意訳:彼女はスペインに2か月間滞在します。
Te llamaré por la mañana.
直訳:午前の辺りに君に電話する。
意訳:午前中に電話するよ。
交通手段やコミュニケーション手段を表す
「~を使って」「~経由で」という手段を表します。
Mando una carta por correo aéreo.
直訳:航空郵便という手段で手紙を送る。
意訳:私は手紙を航空便(エアメール)で送ります。
Hablamos por teléfono.
直訳:電話を通じて話す。
意訳:私たちは電話で話します。
交換、代替、値段を表す
「Aの代わりにB」「Aと引き換えにB」という交換のイメージです。
Fernando juega por su hermano que está enfermo.
直訳:フェルナンドは病気の弟の代わりにプレーする。
意訳:フェルナンドは病気の弟の代役として出場します。
Pagué diez dólares por la camisa.
直訳:シャツと引き換えに10ドル払った。
意訳:そのシャツに10ドル払いました。
スペイン語 para(パラ)の基本的な意味や使い方
para は矢印が前へ向いているイメージです。「目的」「ゴール」「期限」などを表し、「~のために」「~にとって」「~へ向かって」と訳されます。
目的や目標を表す
動作の最終的な目的(~するために)を表します。
Trabajo para vivir.
直訳:生きるという目的のために働く。
意訳:私は生活のために働きます。
Él estudia mucho para ser abogado.
直訳:弁護士になるために彼はたくさん勉強する。
意訳:彼は弁護士になるために一生懸命勉強しています。
目的地や行先を表す
移動のゴール地点(~行き)を表します。
Mañana partimos para México.
直訳:明日、メキシコへ向かって出発する。
意訳:明日私たちはメキシコへ発ちます。
El autobús va para Guanajuato.
直訳:グアナフアトへ向かうバス。
意訳:グアナフアト行きのバス。
期限(予定の時間)を表す
「~までに」という締め切りや期限を表します。
Necesito el dinero para mañana.
直訳:明日を期限としてお金が必要だ。
意訳:明日までにお金が必要です。
Voy a viajar a Guatemala para Navidad.
直訳:クリスマスに向けてグアテマラへ旅行する。
意訳:クリスマス(休暇)にはグアテマラへ旅行に行く予定です。
用途・対象を表す
誰のためのものか、何に使うものかを表します。
Necesito una toalla para secarme las manos.
直訳:手を乾かすためのタオルが必要だ。
意訳:手拭き用のタオルが必要です。
Es un regalo para ti.
直訳:君を対象としたプレゼントだ。
意訳:君へのプレゼントだよ。
比較・対比(~にしては)
基準と比べて「~にしては」と評価する場合に使います。
Para tener seis años este niño lee bien.
直訳:6歳であることに対して、この子はよく読む。
意訳:6歳にしてはこの子は読むのが上手です。
Para ser extranjero pronuncia bien el español.
直訳:外国人であることに対して、スペイン語の発音が良い。
意訳:外国人にしてはスペイン語の発音がきれいですね。
【実践比較】同じ文章で por と para のニュアンス差を理解する
ここからは、por と para を入れ替えることで、文の意味や背景がどう変わるのかを比較して見ていきましょう。
1. フアンは「なぜ」花を買ったのか?(原因・代理 vs 目的)
- A: Juan compró flores por su novia.
- B: Juan compró flores para su novia.
どちらも日本語にすると「フアンは恋人のために花を買った」と訳せてしまいますが、その背景(動機)は大きく異なります。
A: por su novia の場合(原因・代理)
por は「原因」や「交換・代理」を表すため、文脈によって以下の2通りの解釈ができます。
- 原因(~のせいで):
「彼女とケンカして機嫌を直す必要があった」「彼女にしつこく頼まれた」など、彼女という原因があって、花を買う行為に至ったケース。 - 代理(~の代わりに):
「本来は彼女が花を買う当番だったが、風邪で行けなくなった」など、彼女の代役としてフアンが買ったケース。
B: para su novia の場合(目的・対象)
para は「目的・対象」を表すため、純粋に「恋人にプレゼントするために」花を買ったことを表します。
「彼女を喜ばせたい」というフアンの自発的な気持ちが強く、一般的な「恋人のために花を買う(プレゼントする)」という文脈ではこちらが自然です。
2. 掃除をするのはパーティーの前?後?
- A: Limpio la sala por la fiesta.
- B: Limpio la sala para la fiesta.
A: por la fiesta の場合(原因)
「パーティーが原因で掃除する」ということは、パーティーが行われた結果、部屋が散らかったので掃除をする、つまり「パーティーの後の掃除」である可能性が高いです。
B: para la fiesta の場合(目的)
「パーティー(開催)のために掃除する」のですから、これから客人を迎えるための「パーティーの前の準備」であることがわかります。
3. クリスマスの「頃」か「まで」か
- A: Viajaré a México por Navidad.
- B: Viajaré a México para Navidad.
A: por Navidad の場合(期間・あいまい)
「クリスマスの時期に」という漠然とした期間を表します。クリスマス当日を含め、その前後の休暇期間に旅行するというニュアンスです。
B: para Navidad の場合(期限・ターゲット)
「クリスマスに向けて」「クリスマスには」と、クリスマスという時点をターゲットにしています。「クリスマスまでにはメキシコに着くように行く」または「クリスマスを過ごすために行く」という意思が強く感じられます。
4. バスの行先と経由地
- A: El autobús va por Mérida.
- B: El autobús va para Mérida.
A: por Mérida の場合(通過・経由)
これは「バスはメリダらへんを通って行きます(メリダ経由です)」という意味になります。メリダが最終目的地ではなく、あくまで通過点であることを示唆します。
B: para Mérida の場合(行先)
「バスはメリダへ向かって行きます」となり、メリダが目的地(終点)である可能性が高いです。この場合、前置詞 a を使った El autobús va a Mérida とほぼ同じ意味になります。
ちなみにラテンアメリカの日常会話では、行き先を告げる際、para を短縮して pa’ と発音することがよくあります。
例:Ven para acá(こっちにおいで)→ Ven pa’cá.
まとめ
por と para の違いについて解説しましたが、いかがでしたか?
日本語訳だけに頼ると区別が難しいですが、「原因の por(後ろ向きの矢印)」と「目的の para(前向きの矢印)」というコアイメージを持つことで、文脈による使い分けが見えてきます。
最後に、それぞれの主な役割を振り返ってみましょう。
- 原因・理由(~のせいで)
- おおよその場所・通過(~を通って)
- 期間(~の間)
- 手段・交換(~で、~の代わりに)
- 目的(~するために)
- 行先・対象(~へ、~にとって)
- 期限(~までに)
- 比較(~にしては)
会話の中で ¿Por qué?(なぜ?原因)と聞かれたら Porque…(なぜなら…)と答え、¿Para qué?(何のために?目的)と聞かれたら Para…(~のために…)と答える。まずはこの基本のキャッチボールから意識してみてください。

