スペイン語の動詞 hacer は、日常会話で最も頻繁に使われる動詞の一つです。
基本的な意味は「~する」「~を作る」ですが、それ以上に重要な役割を持っています。天候や時間の経過を表したり、特定の単語と結びついて重要な熟語を作ったりと、その用途は多岐にわたります。
本記事では、hacer の全活用パターンから、文法的に重要な用法、そしてネイティブスピーカーが頻繁に使う熟語表現までを網羅的に解説します。
スペイン語の動詞 hacer の活用一覧
hacer は不規則活用をする動詞の代表格です。特に直説法現在形の1人称単数(yo)や、過去形、未来形など多くの時制で不規則に変化するため、注意が必要です。
ここでは、ラテンアメリカで広く使われる vos(Voseo)と、スペインで使われる vosotros の両方を含めた活用表を掲載します。
hacer の分詞(現在分詞・過去分詞)
過去分詞は不規則変化をします。完了形を作る際や形容詞として使う際に必須の形です。
| 種類 | 活用 |
|---|---|
| 現在分詞 | haciendo |
| 過去分詞 | hecho |
hacer の直説法現在形の活用
1人称単数(yo)が hago となり、語根が変化します。2人称単数の tú と vos でアクセントの位置が異なる点にも注目してください。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | hago |
| tú / vos | haces / hacés |
| él / ella / usted | hace |
| nosotros / nosotras | hacemos |
| vosotros / vosotras | hacéis |
| ellos / ellas / ustedes | hacen |
hacer の直説法点過去形の活用
点過去は語根が hic- (3人称単数は hiz-)に変化する完全不規則活用です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | hice |
| tú | hiciste |
| él / ella / usted | hizo |
| nosotros / nosotras | hicimos |
| vosotros / vosotras | hicisteis |
| ellos / ellas / ustedes | hicieron |
hacer の直説法線過去形の活用
線過去は規則活用です。過去の習慣や状況説明で使われます。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | hacía |
| tú | hacías |
| él / ella / usted | hacía |
| nosotros / nosotras | hacíamos |
| vosotros / vosotras | hacíais |
| ellos / ellas / ustedes | hacían |
hacer の直説法未来形の活用
未来形は語根が har- に変化します。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | haré |
| tú | harás |
| él / ella / usted | hará |
| nosotros / nosotras | haremos |
| vosotros / vosotras | haréis |
| ellos / ellas / ustedes | harán |
hacer の可能法(過去未来)の活用
可能法も未来形と同様に語根が har- に変化します。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | haría |
| tú | harías |
| él / ella / usted | haría |
| nosotros / nosotras | haríamos |
| vosotros / vosotras | haríais |
| ellos / ellas / ustedes | harían |
hacer の命令法の活用
肯定命令の tú は不規則で haz となります。否定命令では接続法現在形を使用します。
| 主語 | 肯定命令 | 否定命令 |
|---|---|---|
| tú | haz | no hagas |
| vos | hacé | no hagás |
| usted | haga | no haga |
| nosotros | hagamos | no hagamos |
| vosotros | haced | no hagáis |
| ustedes | hagan | no hagan |
hacer の接続法現在形の活用
直説法現在1人称単数(hago)に基づき、語根は hag- となります。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | haga |
| tú / vos | hagas / hagás |
| él / ella / usted | haga |
| nosotros / nosotras | hagamos |
| vosotros / vosotras | hagáis |
| ellos / ellas / ustedes | hagan |
hacer の接続法過去形(ra形)の活用
直説法点過去3人称複数(hicieron)に基づき、語根は hicier- となります。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | hiciera |
| tú | hicieras |
| él / ella / usted | hiciera |
| nosotros / nosotras | hiciéramos |
| vosotros / vosotras | hicierais |
| ellos / ellas / ustedes | hicieran |
hacer の基本的な意味(作る・する)
hacer の最も基本的な機能は、何かを「作る」こと、または動作を「行う」ことです。目的語によって日本語訳が柔軟に変化します。
具体的なモノを「作る」
料理、作品、建物など、形あるものを生み出す場合に使います。
Hago un arroz chaufa.
直訳:私はチャーハンを作る。
意訳:チャーハンを作ります。
Mi abuela me hizo una bufanda.
直訳:祖母は私にマフラーを作った。
意訳:おばあちゃんがマフラーを編んでくれました。
Hacen una casa moderna.
直訳:彼らはモダンな家を作る。
意訳:モダンなデザインの家を建てています。
Hago un video para YouTube.
直訳:私はYouTubeのための動画を作る。
意訳:YouTube用の動画を作成(撮影・編集)します。
行為や動作を「する・行う」
仕事、勉強、スポーツ、パーティーなどの行為を行う場合に使います。
Tengo que hacer la tarea.
直訳:私は宿題をしなければならない。
意訳:宿題をやらなきゃいけません。
Mi padre hace un buen trabajo.
直訳:私の父は良い仕事をする。
意訳:父はいい仕事をします。
Vamos a hacer una fiesta mañana.
直訳:私たちは明日パーティーをするつもりだ。
意訳:明日パーティーを開きましょう。
掃除する、準備する
文脈により「整える」「準備する」という意味になります。
Voy a hacer la habitación.
直訳:私は部屋をするつもりだ。
意訳:部屋を掃除してきます。
No olvides hacer la cama.
直訳:ベッドをすることを忘れるな。
意訳:ベッドメイクを忘れないでね。
Ya hice la maleta.
直訳:もうスーツケースをした。
意訳:もう荷造りは済ませました。
文法的に重要な用法(天候・時間・使役)
hacer は単なる「する」という動詞を超え、文法的な機能を果たす場合が多くあります。
天気を表す(非人称の hacer)
天候について話す際、hacer は主語を持たない「非人称動詞」として使われます。必ず3人称単数形(hace / hizo / hacía 等)を用います。
Hoy hace buen tiempo.
直訳:今日、良い天気をなす。
意訳:今日はいい天気です。
Aquí hace mucho calor en verano.
直訳:夏、ここはたくさんの暑さをなす。
意訳:ここは夏、とても暑いです。
Ayer hizo mucho viento.
直訳:昨日、たくさんの風をなした。
意訳:昨日は風が強かった。
時間の経過を表す
「~前から」「~して…になる」という期間を表す際にも hacer を使います。これも主語を持たない表現です。
Vivo en Bogotá hace cinco años.
直訳:私はボゴタに住んでいる、5年を作る。
意訳:私は5年前からボゴタに住んでいます。
Hace mucho tiempo que no llueve.
直訳:雨が降らなくて長い時間を作る。
意訳:長い間、雨が降っていません。
Hace dos años que estudio español.
直訳:私がスペイン語を勉強して2年を作る。
意訳:スペイン語を勉強して2年になります。
使役表現「~させる」(hacer + 不定詞)
「誰かに~させる」という使役の意味を表します。
基本構造は hacer + (人) + 不定詞 です。「人」が代名詞になる場合、使役させる動詞が自動詞か他動詞かによって、直接目的格(lo/la/los/las)か間接目的格(le/les)かが変わる場合がありますが、口語では le を使う傾向も強く見られます。
El profesor me hizo leer el libro.
直訳:先生は私にその本を読むようにさせた。
意訳:先生は私にその本を読ませた。
Esa canción me hace llorar.
直訳:その歌は私を泣かせる。
意訳:その歌を聞くと泣けてきます。
Yo los hice callar.
直訳:私は彼らを黙らせた。
意訳:私は彼らを静かにさせた。
会話で役立つ hacer を使った熟語表現
hacer は特定の名詞と結びつき、独自の意味を持つ熟語(イディオム)を形成します。日常会話で頻出するものばかりです。
hacer falta(必要である・欠けている・寂しい)
何かが不足している、または必要であることを表します。人に対して使うと「会いたい(寂しい)」という意味になります。
Me hace falta dinero.
直訳:私にはお金が欠けている。
意訳:お金が必要です。
Me haces mucha falta.
直訳:君が私にはとても欠けている。
意訳:君がいなくてとても寂しい(君がどうしても必要だ)。
hacer caso(注意を払う・言うことを聞く)
アドバイスや忠告を聞く、相手にする、という意味で使われます。
Hazme caso.
直訳:私に注意を払え。
意訳:私の言うことを聞いて。
No le hagas caso a él.
直訳:彼に注意を払うな。
意訳:彼のことは放っておきなさい(気にしないで)。
hacer daño(痛む・害を与える)
物理的な痛みや、精神的なダメージを与える場合に使います。ラテンアメリカでは「お腹を壊す」といった文脈でもよく使われます。
Me hace daño el estómago.
直訳:胃が私に害を与える。
意訳:お腹が痛いです(または、食べたものが当たった)。
Fumar te hace daño.
直訳:喫煙は君に害を与える。
意訳:タバコは体に毒だよ。
hacer cola(列に並ぶ)
Tenemos que hacer cola para entrar.
直訳:入るために私たちは列を作らなければならない。
意訳:入るには並ばないといけません。
再帰動詞 hacerse の意味と使い方
hacer に再帰代名詞 se が付いた hacerse という形も非常に重要です。
変化を表す「~になる」
職業や宗教、社会的地位など、本人の努力や過程を経て「~になる」という場合によく使われます。
Ella se hizo abogada.
直訳:彼女は自分自身を弁護士にした。
意訳:彼女は(努力して)弁護士になった。
Se hizo muy famoso.
直訳:彼は自分自身をとても有名にした。
意訳:彼はとても有名になりました。
(+定冠詞+形容詞)ふりをする・装う
Se hizo el sordo.
直訳:彼は耳が聞こえない人のふりをした。
意訳:彼は聞こえないふりをしました。
No te hagas el tonto.
直訳:馬鹿のふりをするな。
意訳:とぼけるなよ。
(+a+人)~のように思える・感じられる
「se me hace…」の形で「私には~のような気がする」という感覚的な判断を表します。
Se me hace tarde.
直訳:私にとって遅くなる。
意訳:遅くなってしまった(急がなきゃ)。
Ese problema se me hizo fácil.
直訳:その問題は私にとって簡単になった。
意訳:その問題は私には簡単に思えました。
Se me hace que va a llover.
直訳:雨が降るというふうに私には構成される。
意訳:なんだか雨が降りそうな気がします。
まとめ
スペイン語の動詞 hacer は、不規則活用が多く覚えるのが大変ですが、その分使いこなせれば表現の幅が劇的に広がります。
- 活用:現在、過去、未来、命令法などで不規則変化する重要動詞。
- 基本:「作る」「する」が基本だが、文脈で「料理する」「掃除する」など柔軟に訳す。
- 文法:「天候」「時間経過」「使役(~させる)」を作る機能を理解する。
- 熟語:hacer falta(必要だ)、hacer caso(言うことを聞く)などは会話で頻出。
まずは活用を確実に覚え、日常会話でよく使う「天気」や「hace + 時間」の表現から慣れていくことをおすすめします。
