スペイン語学習において、多くの人が最初につまずく壁の一つが「目的語」の使い方です。特に「間接目的語」は、日本語の感覚とは少し異なるルールが存在するため、正確に理解しておく必要があります。
この記事では、スペイン語(特にラテンアメリカ圏)での会話に欠かせない「間接目的語(〜に)」と「間接目的格人称代名詞」について、基礎から応用ルールまでを論理的に解説します。
スペイン語の「間接目的語」とは?
文法用語では難しく聞こえますが、間接目的語とは単純に「誰に?」「何のために?」という質問の答えにあたる人や物を指します。行為の「受け手」を表す言葉です。
日本語の助詞「〜に」に相当する部分と考えると理解しやすいでしょう。多くの場合、前置詞 a とセットで用いられます。
例文:
Yo escribo una carta a mi novia.
直訳:私は恋人に手紙を書く。
意訳:彼女に手紙を書きます。
ここで要素を分解してみましょう。
- 直接目的語(〜を): una carta(手紙を)
- 間接目的語(〜に): a mi novia(恋人に)
「手紙」は書かれる対象そのものですが、「恋人」は手紙を受け取る相手です。この「相手」が間接目的語となります。
間接目的格人称代名詞の一覧表
会話の中で毎回「マリアに」「私の母に」と固有名詞を繰り返すのは非効率です。そのため、代名詞(彼に、彼女に、君になど)に置き換えて話すのが一般的です。これを「間接目的格人称代名詞」と呼びます。
以下がその一覧です。
| 人称 | 単数 | 複数 |
|---|---|---|
| 1人称(私/私たち) | me(私に) | nos(私たちに) |
| 2人称(君/君たち) | te(君に) | os / les(君たちに) ※注釈参照 |
| 3人称(彼/彼女/あなた) | le(彼/彼女/あなたに) | les(彼ら/彼女ら/あなた方に) |
※ラテンアメリカでの注意点:
スペインのスペイン語では「君たちに」として os を使いますが、ラテンアメリカの多くの国では os を使わず、すべて les(ustedesに対応)を使用します。本記事ではラテンアメリカの標準的な用法に基づき解説します。
基本的な使用例
Miranda nos enseña español.
直訳:ミランダは私たちにスペイン語を教える。
意訳:ミランダが私たちにスペイン語を教えてくれます。
Yo te digo la verdad.
直訳:私は君に真実を言う。
意訳:君に本当のことを言うよ。
最重要ルール:代名詞の「重複」 (A María le gusta…)
ここが学習者が最も間違いやすいポイントです。
スペイン語、特に会話表現においては、「誰に(a 〇〇)」という具体的な名前が出ていても、代名詞(le / les)を重複させて使うのが自然、あるいは必須とされるケースが多々あります。
Yo le mandé un mensaje a mi jefe.
直訳:私は彼にメッセージを送った、上司に。
意訳:上司にメッセージを送りました。
この文では「a mi jefe(上司に)」と明言しているにもかかわらず、動詞の前に「le(彼に)」を置いています。これを「重複形(Redundancia)」と呼びます。
文法的には「a mi jefe」だけでも通じますが、ネイティブスピーカーの感覚では「le」がないと文が不安定に聞こえることがあります。「a 人」を使うときは、セットで「le / les」も置くと覚えておくと、より自然なスペイン語になります。
代名詞を置く「位置」のルール
間接目的格人称代名詞(me, te, le…)を置く場所には明確なルールがあります。
1. 基本:活用した動詞の「前」
通常は動詞の直前に置きます。
Natalia le habla en inglés.
直訳:ナタリアは彼(彼女)に英語で話す。
意訳:ナタリアは彼に英語で話しかけます。
2. 例外:動詞の「後ろ」に結合させるケース
以下の3つのパターンでは、動詞の後ろにくっつけて1語として扱います。
- 不定詞(原形): 動詞の原形の後ろ
- 現在分詞(〜している): -ando / -iendo の後ろ
- 肯定命令形(〜しろ): 命令形の後ろ
不定詞の例:
¿Puedes comprarme esto?
直訳:君は私にこれを買うことができる?
意訳:これ、私に買ってくれる?
現在分詞の例(アクセント記号に注意):
Estoy diciéndole la verdad.
直訳:私は彼に真実を言っているところだ。
意訳:彼に本当のことを話している最中です。
※結合することでアクセントの位置が変わるため、diciéndole のようにアクセント記号が必要になります。
肯定命令形の例:
Pásame la sal, por favor.
直訳:私に塩を渡しなさい、お願いします。
意訳:塩を取ってくれませんか。
※「否定命令(〜するな)」の場合は、動詞の前に置きます。
例:No me digas.(私に言わないで=まさか!)
ダブル目的語のルール:直接と間接を併用する場合
「彼に(間接)」と「それを(直接)」の両方を同時に代名詞にする場合、2つの重要なルールが適用されます。
ルール1:語順は「人 + モノ」
必ず「間接目的語(人)⇒ 直接目的語(モノ)」の順序になります。
Yo te lo digo.
直訳:私は君にそれを言う。
意訳:そのことは君に言っておくよ。
- te(君に)= 間接
- lo(それを)= 直接
ルール2:「Le lo」は「Se lo」に変化する
これが最大の難関です。両方の代名詞が3人称(le, les と lo, la, los, las)で重なる場合、発音のしにくさを避けるため、le / les が se に変化します。
例えば、「私はマリアに指輪をあげる」を代名詞化する場合を考えます。
- マリアに(a María)⇒ le
- 指輪を(un anillo)⇒ lo
× Yo le lo regalo.(発音しにくいので間違い)
○ Yo se lo regalo.(正解)
例文:
Ya se lo di.
直訳:もう私は彼(彼女)にそれをあげた。
意訳:もう渡しちゃったよ。
この「se」は文脈によって「彼に」「彼女に」「あなたに」「彼らに」のいずれかを指します。誰を指すか明確にしたい場合は、文末に「a 〇〇」を付け加えます。
Se lo regalo a María.(マリアにプレゼントするんだ。)
よく使う「Gustar系動詞」も間接目的語
スペイン語学習者が頻繁に使う動詞 Gustar(好きである)も、実はこの間接目的語の構文を使っています。
「Me gusta el café.」は直訳すると「コーヒーは私に好かれる(コーヒーは私に喜びを与える)」という構造です。この「Me(私に)」が間接目的語です。
A mi papá le encanta el fútbol.
直訳:私の父にとって、サッカーは大好きだ。
意訳:父はサッカーが大好きです。
- A mi papá(父に)= 具体的な間接目的語
- le(彼に)= 重複の代名詞
他にも Doler(痛む)、Interesar(興味がある)なども同じ仕組みです。
¿Te duele la cabeza?
直訳:頭は君に痛むか?
意訳:頭痛いの?
まとめ
間接目的語(le/les)を使いこなせると、会話の流暢さが格段に上がります。
- 基本:「誰に」を表す言葉。
- 重複:「a 〇〇」と言うときも「le」を添えるのが自然。
- 語順:「人 + モノ」の順。「Le lo」は「Se lo」に変える。
最初はルールの多さに戸惑うかもしれませんが、まずは “Voy a decirte”(君に言うつもりだよ)や “Se lo explico”(彼に説明しておくよ)といった、決まり文句のパターンから口に馴染ませていくことをおすすめします。
スペイン語の直接目的語に関してはこちらの記事を参考にしてください。
参考 スペイン語の直接目的語「lo, la」を完全マスター!代名詞のルールと位置を徹底解説

