スペイン語の decir(言う)は、日常会話で最も頻繁に使われる動詞の一つです。
「言う」という基本的な意味だけでなく、人に道を「教える」ときや、「~だそうだ」という伝聞、さらには「~するように言う」といった命令のニュアンスまで、非常に幅広い表現で使われます。
しかし、decir は不規則活用の代表格でもあり、学習者が最初につまずきやすいポイントでもあります。また、似た意味を持つ hablar(話す)や contar(語る)との使い分けも重要です。
この記事では、decir のすべての活用形(ラテンアメリカで使われる vos を含む)と、実践的な使い方、そして間違いやすいポイントを整理して解説します。
スペイン語の動詞 decir の全活用表
decir は語幹母音変化(e ⇒ i)や、語根そのものが変わる不規則変化を多く含みます。まずは形をしっかり確認しましょう。
decir の分詞(現在分詞・過去分詞)
現在分詞は語幹の e が i に変わる不規則変化、過去分詞も完全に不規則な形になります。
| 種類 | 活用 |
|---|---|
| 現在分詞 | diciendo |
| 過去分詞 | dicho |
decir の直説法現在形の活用
1人称単数(yo)が「go」で終わる形(digo)になります。また、tú, él/ella, ellos/ellas では語幹の e が i に変化します。
nosotros と vosotros は規則的な変化です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | digo |
| tú vos | dices / decís |
| él / ella / usted | dice |
| nosotros / nosotras | decimos |
| vosotros / vosotras | decís |
| ellos / ellas / ustedes | dicen |
decir の直説法点過去形の活用
点過去は語幹が「dij-」となる完全不規則変化です。3人称複数(ellos/ellas/ustedes)の語尾から「i」が消える点(dijeron)に注意してください。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | dije |
| tú | dijiste |
| él / ella / usted | dijo |
| nosotros / nosotras | dijimos |
| vosotros / vosotras | dijisteis |
| ellos / ellas / ustedes | dijeron |
decir の直説法線過去形の活用
線過去は、ir動詞の規則変化通りです。不規則な要素はありません。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | decía |
| tú | decías |
| él / ella / usted | decía |
| nosotros / nosotras | decíamos |
| vosotros / vosotras | decíais |
| ellos / ellas / ustedes | decían |
decir の直説法未来形の活用
未来形は語幹が「dir-」という形に短縮される不規則変化です。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | diré |
| tú | dirás |
| él / ella / usted | dirá |
| nosotros / nosotras | diremos |
| vosotros / vosotras | diréis |
| ellos / ellas / ustedes | dirán |
decir の可能法(過去未来)の活用
可能法(条件法)も未来形と同じく、語幹が「dir-」になります。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | diría |
| tú | dirías |
| él / ella / usted | diría |
| nosotros / nosotras | diríamos |
| vosotros / vosotras | diríais |
| ellos / ellas / ustedes | dirían |
decir の命令法の活用
肯定命令の tú は不規則な短い形(di)になります。否定命令は接続法現在形と同じ形を使います。
| 主語 | 肯定命令 | 否定命令 |
|---|---|---|
| tú | di | no digas |
| vos | decí | no digas |
| usted | diga | no diga |
| nosotros | digamos | no digamos |
| vosotros | decid | no digáis |
| ustedes | digan | no digan |
decir の接続法現在形の活用
直説法現在形の1人称単数(digo)がベースとなり、全体が「dig-」という語幹になります。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | diga |
| tú vos | digas / digás |
| él / ella / usted | diga |
| nosotros / nosotras | digamos |
| vosotros / vosotras | digáis |
| ellos / ellas / ustedes | digan |
decir の接続法過去形(ra形)の活用
直説法点過去の3人称複数(dijeron)から「on」を取った形がベースとなります。
| 主語 | 活用 |
|---|---|
| yo | dijera |
| tú | dijeras |
| él / ella / usted | dijera |
| nosotros / nosotras | dijéramos |
| vosotros / vosotras | dijerais |
| ellos / ellas / ustedes | dijeran |
decir の基本的な意味と使い方
活用を確認したところで、実際の文脈での使い方を見ていきましょう。
「言う・伝える」(基本)
最も一般的な使い方です。「誰に(間接目的語)」と「何を(直接目的語)」を伴うことがよくあります。
Ella me dijo adiós.
直訳:彼女は私にさよならを言った。
意訳:彼女は私に別れを告げた。
Yo le he dicho la verdad.
直訳:私は彼(彼女)に真実を言った。
意訳:私は彼に本当のことを伝えた。
「~だそうだ・~らしい」(引用・伝聞)
3人称複数(dicen)を主語を省略して使うことで、「人々が言っている」=「~だそうだ」という伝聞の意味になります。
Dicen que mañana va a llover.
直訳:明日雨が降ると(人々が)言っている。
意訳:明日は雨が降るそうだ。
また、再帰動詞 decirse(言われる)を使っても同様の表現が可能です。
Se dice que este restaurante es el mejor de la ciudad.
直訳:このレストランは街で一番だと言われている。
意訳:このレストランは街一番だそうだ。
「教える」(情報の伝達)
道案内や時間を尋ねる際、日本語では「教えてください」と言いますが、スペイン語では「(情報を)口で言ってください」というニュアンスで decir が使われます。
Una señora me dijo cómo llegar al parque.
直訳:ある婦人が私に、公園への着き方を言った。
意訳:ある婦人が公園への行き方を教えてくれた。
¿Me podría decir la hora?
直訳:私に時間を言うことは可能でしょうか?
意訳:今何時か教えていただけますか?
- 補足:enseñar との違い
enseñar も「教える」と訳されますが、こちらは「先生が生徒に教える」「技術や知識を授ける」という意味合いが強くなります。単なる情報の伝達には decir を使うのが自然です。
「~と呼ばれる」(再帰動詞 decirse)
物の名前や、言葉の表現方法を尋ねるときに使われます。
¿Cómo se dice “arigato” en español?
直訳:スペイン語で「ありがとう」はどのように言われますか?
意訳:スペイン語で「ありがとう」は何と言いますか?
【重要】「~するように言う」:接続法との組み合わせ
decir を使う上で、中級レベルへのステップアップとして非常に重要なのが、後ろに続く動詞が「直説法」か「接続法」かで意味が大きく変わるという点です。
事実の伝達 vs 指示・命令
decir que の後ろに動詞が来るとき、以下のルールがあります。
- 直説法:「~という事実」を言う(報告・伝達)
- 接続法:「~するように」言う(指示・命令・依頼)
以下の2つの例文を比較してみましょう。
Ella me dice que viene a mi casa.
直訳:彼女は私に、彼女が私の家に来ると言っている。
意訳:彼女は家に来るそうだ。(事実の報告)
Ella me dice que venga a su casa.
直訳:彼女は私に、彼女の家に来るように言っている。
意訳:彼女は私に「家に来て」と言っている。(指示・命令)
このように、同じ decir でも後ろが接続法(venga)になることで、それは単なる報告ではなく「命令(間接命令)」の意味を帯びます。文脈によって使い分ける必要があります。
紛らわしい動詞との使い分け
「話す・言う」に関連する動詞はいくつかあり、初学者が混同しやすいポイントです。
decir vs hablar vs contar
- decir(言う・伝える)
「内容」を伝えることに焦点があります。「何を」言ったのか(目的語)が重要です。
例:Dime la verdad.(真実を言って。) - hablar(話す)
「話すという行為」や「言語を話す」ことに焦点があります。会話をする(conversar)ニュアンスに近いです。
例:Hablo español.(スペイン語を話す。) / Hablé con él.(彼と言葉を交わした。) - contar(語る・数える・教える)
物語や出来事を順序立てて話す、詳しく教えるというニュアンスです。「数える」という意味もあります。
例:Cuéntame qué pasó.(何が起きたのか話して/教えて。)
decir を使った頻出熟語
最後に、日常会話でそのまま使える便利な熟語を紹介します。
es decir(つまり、すなわち)
前の言葉を言い換えたり、補足説明したりするときに使います。
Me gusta la comida picante, es decir, la comida mexicana.
直訳:私は辛い食べ物が好きだ、つまりメキシコ料理だ。
意訳:私は辛いもの、つまりメキシコ料理が好きです。
querer decir(意味する)
直訳すると「言いたがる」ですが、物や言葉が主語になると「意味する」となります。英語の mean に相当します。
¿Qué quiere decir esta palabra?
直訳:この単語は何を言いたがっていますか?
意訳:この単語はどういう意味ですか?
¡No me digas!(まさか!/言わないで)
直訳は「私に言うな」という否定命令ですが、驚きを表す感嘆詞として頻繁に使われます。「冗談でしょ?」「信じられない!」といったニュアンスです。
A: ¡Gané la lotería!(宝くじに当たったよ!)
B: ¡No me digas!(まさか!/嘘でしょ!)
decir は不規則な活用が多いですが、会話の要となる非常に重要な動詞です。一つずつ活用を覚え、文脈に応じた使い分けをマスターしていきましょう。
まとめ:decir を使いこなして表現の幅を広げよう
今回の記事では、スペイン語の重要動詞 decir の活用と使い方について解説しました。
最後に、重要なポイントを振り返ってみましょう。
- 活用の暗記: 語幹母音変化(e ⇒ i)や、「go」で終わる1人称単数など、不規則な変化をしっかり覚えることが第一歩です。
- 接続法との連携: 「decir que + 接続法」で「~するように言う(命令)」という意味になる点は、中級レベルにおける最重要項目です。
- 類義語との区別: 「行為」の hablar、「詳細を語る」 contar と区別し、「内容を伝える」 decir のニュアンスを掴みましょう。
decir は会話の中で登場しない日はないと言っても過言ではない動詞です。最初は活用を思い出すのに時間がかかるかもしれませんが、焦らず一つずつ定着させていきましょう。
