スペイン語学習を進めていくと、必ずぶつかる壁があります。それが「目的語(〜を、〜に)」の使い分けです。
「私は本を買う」と言うとき、スペイン語では毎回「本」という単語を繰り返すわけではありません。「私はそれを買う」のように、代名詞を使って会話をスムーズにします。
今回は、スペイン語の文法で非常に重要な「直接目的語(〜を)」と、それを置き換える「直接目的格人称代名詞(lo, la…)」について解説します。
特に、動詞の「前」に置くのか「後ろ」にくっつけるのかという配置ルールや、ラテンアメリカのスペイン語で頻繁に使われる表現方法まで、詳しく見ていきましょう。
そもそもスペイン語の「直接目的語」とは?
直接目的語(Objeto Directo)とは、動詞の動作が直接及ぶ対象のことです。簡単に言うと、動詞に対して「何を?(¿Qué?)」や「誰を?(¿A quién?)」と問いかけたときの答えになる言葉です。
日本語では助詞の「〜を」にあたる部分が多いですが、常に「〜を」と訳せるとは限らないため、動詞との関係性で判断することが大切です。
以下の例文を見てみましょう。
Yo espero el autobús.
直訳:私はそのバスを待つ。
意訳:私はバスを待っています。
この文で「何を待っているのか?」の答えである el autobús(バス)が直接目的語です。
Compré unas flores.
直訳:私はいくつかの花を買った。
意訳:私は花を買いました。
この文では「何を買ったのか?」の答えである unas flores(花)が直接目的語になります。
重要ルール:「特定の人」には前置詞 a がつく
スペイン語の直接目的語には、重要なルールがあります。それは、対象が「特定の人(またはペットなどの愛着ある動物)」の場合、直前に前置詞 a を置くというルールです。これを「個人的な a(a personal)」と呼びます。
モノの場合(a は不要)
Busco el anillo.
直訳:私はその指輪を探す。
意訳:私は指輪を探しています。
特定の人・動物の場合(a が必要)
Busco a mi gato.
直訳:私は私の猫を探す。
意訳:私は飼い猫を探しています。
Espero a María.
直訳:私はマリアを待つ。
意訳:私はマリアを待っています。
「君は誰を待っているの?」と質問する場合も、疑問詞 quién(誰)の前に a が必要です。
¿A quién esperas?
直訳:誰を君は待っているか?
意訳:誰を待っているの?
一方で、人を表す言葉であっても「不特定の人(誰でもいい、役職など)」を指す場合は、a は不要です。
Buscamos una secretaria.
直訳:私たちはある秘書を探す。
意訳:私たちは秘書を募集しています。
この場合、「特定の誰か」を探しているのではなく、「秘書という役割の人」を探しているため、a は付きません。
【一覧表】直接目的格人称代名詞(me, te, lo, la…)
会話の中で毎回「その本を」「マリアを」と名詞を繰り返すのは非効率です。日本語でも「それを」「彼女を」と言うように、スペイン語でも代名詞に置き換えます。
これを直接目的格人称代名詞と呼びます。
人称代名詞の変化表
以下が直接目的格人称代名詞の一覧です。特に3人称(彼、彼女、それ)は、性別と数(単数・複数)によって変化するため注意が必要です。
| 人称 | 単数 | 複数 |
|---|---|---|
| 1人称(私・私たち) | me(私を) | nos(私たちを) |
| 2人称(君・君たち) | te(君を) | os(君たちを ※スペインのみ) |
| 3人称(彼・彼女・それ・あなた) | lo(彼を、それを[男]、あなたを[男]) la(彼女を、それを[女]、あなたを[女]) | los(彼らを、それらを[男]) las(彼女らを、それらを[女]) |
※ラテンアメリカでは2人称複数(君たち)に対して os ではなく、3人称複数の los / las(Ustedesに対して)を使用するのが一般的です。
第3人称(lo, la, los, las)の性数一致
置き換える名詞の性別と数に合わせて使い分けます。
Yo compré la flor. (la flor = 女性単数)
→ La compré.
意訳:私はそれを買った。
Yo compré el libro. (el libro = 男性単数)
→ Lo compré.
意訳:私はそれを買った。
Yo compré las flores. (las flores = 女性複数)
→ Las compré.
意訳:私はそれらを買った。
文の中での「配置場所」のルール(語順)
代名詞を使う際、最も重要なのが「文のどこに置くか」です。原則と2つの例外パターンを覚えましょう。
基本ルール:活用した動詞の「直前」に置く
最も基本的なルールです。動詞のすぐ前に置きます。
María me espera.
直訳:マリアは私を待っている。
意訳:マリアは私を待っています。
Te amo.
直訳:私は君を愛する。
意訳:愛してるよ。
¿El libro? Ya lo leí.
直訳:その本?もう私はそれを読んだ。
意訳:その本?もう読んだよ。
例外1:不定詞・現在分詞には「後ろに結合」できる
動詞の原形(不定詞)や、進行形を作る現在分詞(-ando, -iendo)の場合、代名詞を動詞の後ろに直接くっつけて1つの単語のように書くことができます。
Voy a mirar la película.(私はその映画を見るつもりだ)
この文を代名詞化する場合、以下の2通りの語順が可能です。
1. 動詞の前に置く(基本)
La voy a mirar.
2. 不定詞の後ろに結合する
Voy a mirarla.
進行形の場合も同様です。
Estoy mirándola.
直訳:私はそれを見ているところだ。
意訳:今、それを見ているところだよ。
※結合することで元の単語のアクセント位置が変わらないように、アクセント記号(tilde)が必要になる場合があります(例:mirando → mirándola)。
例外2:命令形(肯定・否定)での配置
会話でよく使う「命令形」では、肯定命令か否定命令かによって位置が逆転します。
肯定命令(〜しろ):動詞の後ろに結合
¡Cómpralo!
直訳:それを買え!
意訳:それ買いなよ!
¡Hazlo!
直訳:それをしろ!
意訳:やってみて!
否定命令(〜するな):動詞の前
No lo compres.
直訳:それを買うな。
意訳:それ買っちゃだめだよ。
No lo hagas.
直訳:それをするな。
意訳:やめておきなよ。
ラテンアメリカのスペイン語で重要なポイント
ここからは、教科書だけでは見えにくい、ラテンアメリカの実際の会話で頻出するポイントを解説します。
目的語の重複(名詞があるのに代名詞も使う)
文法的には「名詞があれば代名詞は不要」ですが、実際の会話では「強調」や「話題の明示」のために、名詞と代名詞を同時に使うことがよくあります。
A Juan lo vi ayer.
直訳:フアンには、彼を私は昨日見た。
意訳:フアンなら昨日会ったよ。
この文では、「Juan」という名詞があるにもかかわらず、代名詞「lo」も使われています。特に会話の冒頭で「〜についてはね」と話題に出すときによく使われる形です。
¿Lo conoces a mi hermano?
直訳:彼を知ってる?私の兄を。
意訳:うちの兄のこと、知ってる?
これも非常に自然な会話表現です。
Leísmo(レイスモ)について
スペインの一部地域では、男性の人に対して直接目的語であっても「lo」の代わりに「le」を使う現象(レイスモ)があります(例:Le amo = 彼を愛している)。
しかし、ラテンアメリカでは規範文法通り「lo」を使うのが一般的です。
学習者としては、まずは混乱を避けるため、「直接目的語(〜を)は lo / la」とシンプルに覚えることを強くおすすめします。
まとめ
直接目的語と直接目的格人称代名詞のポイントを整理します。
- 直接目的語は「何を」「誰を」にあたる言葉。
- 特定の人には前置詞 a が付く。
- 代名詞(lo, la…)は、基本は動詞の前。
- 不定詞・現在分詞・肯定命令には、動詞の後ろにくっつく。
「〜を」にあたる直接目的語をマスターしたら、次は「〜に」にあたる間接目的語について学びましょう。両方を使いこなせると、表現の幅がグッと広がります。
スペイン語の間接目的語に関してはこちらの記事を参考にしてください。
参考 スペイン語の間接目的語「le/les」を完全攻略!直接目的語との違いや語順ルールを解説

